錆兎(さびと)は、主人公の竈門炭治郎が鬼殺隊に入る前、師匠の鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)の下で修行していたときに出会った少年です。
そして炭治郎は修行を終えた後に挑んだ最終選別(鬼殺隊に入るための試験)で、実は錆兎は『手鬼(ておに)』という異形の鬼に殺されていた事実を知りました。
今回は、なぜ亡くなっていた錆兎が、炭治郎の前に現れて稽古をつけてくれたのか、その理由を(少し強引気味に)考察してみたいと思います。
▼▼▼動画でもご覧いただけます▼▼▼
錆兎(さびと)が炭治郎の前に現れたのは、師匠への想いから

すでにこの世にいなくなっていた少年・錆兎が炭治郎の前に現れ、炭治郎に稽古をつけてくれた理由、それはまず、ひとりの剣士として純粋に「鬼を倒すことのできる強い剣士になってほしかったから」だと思われます。
しかしそれ以外にも、二つの理由があると考えました。
いずれも、師匠の鱗滝左近次への想いからです。
理由①鱗滝さんの弟子を最終選別で死なせないため

鱗滝さんは、炭治郎よりも前に弟子となった子たちを少なくとも14人、最終選別に送り出しています。
しかし、その中で生き残ったのは後の水柱・冨岡義勇だけで、錆兎も含めた残りの13人は、命を落としてしまっていました。
「もうこれ以上子供が死ぬのを見たくない」、そう思っている鱗滝さんをこれ以上悲しませないために、最終選別で生き残れるよう、炭治郎には強くなってほしかったのだと思います。
理由②鱗滝さんを心痛から解放してあげるため

最終選別で生き残るためには、錆兎を殺した強い鬼『手鬼』に勝たなくてはいけません。
もし炭治郎がその鬼を倒してくれたら、錆兎と同じように手鬼に殺されてしまった他の子たちの魂は救われ、更には鱗滝さんも救われるのではないかと考えたのではないでしょうか。

なるほど。でもちょっと待ってください。それだと、「鱗滝さんは錆兎が手鬼に殺られたことを知っていた」、そして「錆兎がそのこと(鱗滝さんが自分の最期を知っている)を知っていた」ことになりませんか? それはさすがに無理があると思いますけど。
錆兎が参加した年の最終選別
ではまず、その年の最終選別で何があったのかについて見ていきましょう。
錆兎は冨岡義勇と同じ年に最終選別を受けていた

これは、水柱・冨岡義勇のセリフです。
鱗滝さんのところで出会った錆兎と義勇は、どちらも家族を鬼に殺されていて、年齢も同じという境遇から、すぐに仲良くなりました。
そして13歳のとき、一緒に最終選別に参加しています。
義勇はすぐに怪我を負わされてしまう

このあと義勇は気を失ってしまい、そのまま最終選別を終えることになります。
一方の錆兎は、義勇を助けた後、更に他の子も助けに行っています。
強く優しい錆兎は、おそらくそうやって、何人もの子を助けてあげていたのでしょう。
錆兎が最後に対戦した異形の鬼『手鬼』

この鬼は、鱗滝さんが鬼殺隊の剣士だった頃に捕らえた鬼です。
それ以降、ずっと藤襲山(ふじかさねやま・最終選別が行われる場所)に閉じ込められていて、鱗滝さんのことをとても恨んでいました。
そのため、「鱗滝の弟子はみんな殺してやる」と言っています。
錆兎でも倒せなかった手鬼

手鬼は、この狐の面を見て錆兎のことも鱗滝さんの弟子だと知り、襲ってきています。
何十年も生きていて、たくさんの人間を食べている手鬼は、錆兎がそれまでに戦ってきた鬼とは比べものにならない強さでした。
頸を斬ろうと刃をふるったものの、刃が折れてしまい、武器を失った錆兎は手鬼に殺されてしまったのです。
錆兎が亡くなった後についての考察
テレビアニメと原作、それぞれの一場面から考察してみたいと思います。
鱗滝さんが「異形の鬼」(=手鬼)の存在を知っていたと考えられる理由
原作には、鱗滝さんがこのことを知っていたことを伺わせる描写はありませんでした。
しかし、テレビアニメの中にはあったのです。
テレビアニメで追加されたセリフ

「そうか。異形の鬼を殺(や)ったか。ついにな・・・」
これは最終選別から無事に生きて戻ってきた炭治郎からの報告を受け、鱗滝さんが言ったセリフです。
最後の「ついにな」、このたった4文字が、これまで自分の弟子たちを殺してきたのがその「異形の鬼」であると知っていたことを表していると考えました。
では、そもそも鱗滝さんはなぜその事実を知ることができたのでしょうか?
「異形の鬼の存在」と「錆兎の最期」を伝えたのは誰?
炭治郎よりも前に、鱗滝さんに対して最終選別で起きたことを報告できたとすれば、それは弟子の中で唯一生き残った冨岡義勇しかいないはずです。
しかし、義勇は最初に遭遇した鬼に怪我を負わされて気を失い、気がついたら選別が終わっていたので、異形の鬼(=手鬼)には遭遇していません。
ですが、このことについてヒントとなる原作の一コマがこちら、冨岡義勇の回想シーンです。

ここで注目すべきは、右端の義勇でも、真ん中のサラサラヘアの子(たぶん村田さん)でもなく、いちばん左端の子です。
泣いていますね。
左端の子は、なぜ泣いている?
錆兎が死んだという辛い事実を義勇に話したからだと思われます。
この少年自身が、錆兎が手鬼に殺されたところを目撃したのか、あるいは他の子から聞いたのかはわかりません。
しかし、この年の最終選別では錆兎以外の全員が生き残っていますので、その中の誰かが手鬼の姿を目撃していても不思議ではありませんね。
そして義勇は後日、鱗滝さんに会いに行ったときに、この話をしたのではないでしょうか。
ただし、狐の面が目印だったことは知らなかった

義勇は、自分が手鬼に遭遇したわけではないので、手鬼が鱗滝さんを恨んでいることや、狐の面が鱗滝さんの弟子である目印になっていたことまでは知りませんでした。
つまり、鱗滝さんもそこは知らないまま、最終選別に向かう炭治郎にも狐の面を渡していたのです。
「自分の最期を鱗滝さんが知っていた」ということを錆兎が知り得た理由
錆兎は鱗滝さんと義勇のことを見ていた?

錆兎と共に炭治郎の前に現れたこの少女・真菰(まこも)も、最終選別で手鬼に殺されています。
真菰のセリフから、錆兎と真菰だけでなく、手鬼に殺されてしまった他の子たちも、炭治郎のことを見ててくれていることがわかります。
自分たちと同じ鱗滝さんの弟子である炭治郎のことを気にかけてくれていたのだとすると、冨岡義勇のことも気にかけてくれていた、ということになるのではないでしょうか。
特に、義勇の大事な友達だった錆兎は、「義勇のその後もずっと見ていてくれた=鱗滝さんに何を伝えたかも知っていた」と考えられるのです。

かなり強引な気がするが・・・
錆兎がやられてしまった程の鬼なら、他の子も勝てない

手鬼:「珍しい毛色のガキだったな。一番強かった。宍(しし)色の髪をしてた。口に傷がある」
錆兎が異形の鬼に殺されたことを知った鱗滝さんは、他の子たちもその鬼に殺されてしまっていたのだと理解したと思います。
なぜなら、手鬼も言っているとおり、錆兎は鱗滝さんが送り出した弟子の中でいちばん強かった子で、その錆兎を殺してしまうような鬼なら、他の子も勝てるはずがないと思ったからです。
「そんな強い鬼がいたのでは、今後も子供たちを送り込んだところでみんな殺されてしまう。ならばもう子供を選別へ行かせたくない」、そう思い至るのも無理はありません。

手鬼に殺された鱗滝さんの弟子のうち、錆兎が最後の13人目だったかどうかは、はっきりしていません。しかし「錆兎でさえ生き残れなかった」ということが、「鱗滝さんが弟子を最終選別へ送り込むのをやめていた理由」だと考えるのが、いちばん自然だと思いました。
錆兎が炭治郎に説いたこと
ここからは、師匠を想う錆兎が、炭治郎をどう指導してくれたかを見ていきます。
鱗滝さんは、もう弟子を選別へ行かせたくなかったので、敢えて難しい課題(巨大な岩を斬ること)を出したのだと思いますが、錆兎は「手鬼を倒せるほどの強さを身につけて、選別を突破してほしい」と思っていたのでしょう。
錆兎が炭治郎の前に現れたシーン

炭治郎は、まず鱗滝さんの下で1年修行し、更にひとりで半年間鍛錬してきていました。
錆兎が現れたのは、炭治郎がその半年の間あまり成長できず、鱗滝さんから課された最終選別への参加条件である巨大な岩を斬れずに、もがき苦しんでいたときでした。

技術と精神論で鼓舞した錆兎

「知識として覚えただけ」、炭治郎は、この言葉の意味がすぐには理解できなかったようですね。

「お前の血肉に叩き込め!もっと、もっと、もっと!鱗滝さんが教えてくれた全ての極意を、決して忘れることなど無いように!骨の髄まで叩き込むんだ!!」
コミック第1巻
このセリフから、錆兎がどれだけ鱗滝さんを慕っていたかがわかりますね。
具体的な言葉で教えてくれた真菰

どうやったら錆兎のような動きができるようになるのか、それを具体的な言葉で説明してくれたのが真菰でした。
ひとりでは気づけなかった癖を直してくれたり、全集中の呼吸の仕組みについても教えてくれたりしたのです。
しかし、それでも結局は「死ぬほど鍛えるしかない」と言われ、そこから更に半年間、炭治郎はそれこそ死に物狂いで鍛錬を重ねたのでした。
錆兎に勝った日が、錆兎に会った最後の日

出会ってから半年後、それまで木刀を持っていた錆兎は、ついに「真剣」を持って炭治郎の前に立ちました。
この勝負では炭治郎の刃が錆兎に先に届き、錆兎の面を斬ったのです。
そしてそれは、あの巨大な岩を斬った瞬間でもありました。

これを見た鱗滝さんは、炭治郎の技術と精神的な強さが、最終選別に参加するのに十分なレベルに達していると判断し、最終選別への参加を認めたのです。
見事に手鬼を倒した炭治郎

最終選別では、それまで教えてもらったことをフルに生かし、強敵だった手鬼を倒した炭治郎。
それは、炭治郎自身の鬼殺隊入隊への大きな前進となっただけでなく、鱗滝さんの心と錆兎たちの魂にとって、大きな区切りと安堵にもつながったのでした。
まとめ
この考察は、鱗滝さんの「そうか、異形の鬼を殺ったか。ついにな」という、原作にはないセリフが気になったところから始まりました。
経験豊富な鱗滝さんなら「錆兎が選別を突破できなかった」という事実のみからでも、「錆兎ほどの子が殺られてしまったとすると、よほど強い鬼がいたのだろう。人をたくさん食べて異形となった鬼だったのではないか」というところまで思い至ることは十分可能だったと思われます。
しかし、後に冨岡義勇が錆兎のことを語るシーンで、錆兎は強いだけではなく「優しくて思いやりのある少年だった」ということがわかり、それならきっと、師匠の鱗滝さんのことも気にかけていたのではないか、と思ったのです。
そして、錆兎が助けた義勇と厳しく指導した炭治郎の二人は、共に最後まで生き延び、鱗滝さんを悲しませることはなかったのです。
壮大な妄想・・・いや、考察にお付き合いいただき、ありがとうございました。
関連記事