最近「親ガチャ」という言葉を目にするようになりました。
この言葉が広まった背景には、自分の生い立ちについてネガティブなイメージを持つ人たちも多くいることが挙げられるのではないでしょうか。
しかし、『鬼滅の刃』に登場する母親たちの子供なら、「この母に生んでもらえて良かった」と思っているはずです。(父親は反面教師的な人もいますが・・・)
そこで今回は、強く優しい母たちの、我が子への思いを解説していきたいと思います。
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幼い子供を残して病死した母親
煉獄瑠火(るか):煉獄杏寿郎の母
代々炎柱の家系だった煉獄家に嫁ぎ、息子を二人生んだ瑠火さんは、長男の杏寿郎が10歳ぐらい、次男の千寿郎が3歳ぐらいのときに病気で亡くなっています。
千寿郎は物心がつく前でしたので、瑠火さんの記憶はほとんどありませんが、杏寿郎にとっては大きな存在の母親でした。
「幸せな夢」には出てこなかった母親
煉獄さんは、無限列車の中で下弦の壱・魘夢(えんむ)の血鬼術によって眠らされているとき、父親と弟の夢を見ています。
魘夢は、それぞれの人間が「幸せだと思う夢」を見せていましたので、煉獄さんにとっての「幸せ」が「家族との時間」であることをあらわしていますね。
しかし、この中に母親の瑠火さんは出てきていません。
「今の煉獄さん」が幸せだと思うシーンには、瑠火さんは入っていなかった、ということでしょうか。
母を思い出したのは死闘の最中(さなか)
煉獄さんが戦っていた上弦の参・猗窩座(あかざ)は、煉獄さんに対して「鬼になれ」と何度も執拗に誘ってきます。
しかし、それをことごとく断り、自分の責務を全うし続けた煉獄さん。
このシーンは、猗窩座の最後通告とも言える場面でした。
そして「お前は選ばれし強き者」、このセリフを聞いて、かつて母から言われた言葉を思い出したのです。
我が子・杏寿郎に説いた「強く生まれた者」の使命
まだ幼い我が子に説くには、厳しい言葉だったと思います。
しかし、瑠火さんにとっては、今言っておかなければならないことでした。
そしてこの母の言葉は、まだ小学生ぐらいの年齢だった煉獄さんの心に深く刻まれたのです。
このときの煉獄さんの表情は、母がもうすぐいなくなってしまうという悲しみの他に、抱き締められて戸惑っている、というようにも見えますね。
これまでこんなふうに母に抱き締めてもらったことがあまりなかったのでしょう。
おそらく瑠火さんは、子供たちの前では、いつも凜とした強い母親だったのだと思います。
大人になった今、理解できた母の偉大さ
母の言葉を胸に、最後まで諦めずに戦い続けた煉獄さん。
その結果、夜明けまで猗窩座を自分に引きつけることになり、猗窩座は炭治郎たちへの手出しができないまま、陽光を避けるためにその場を去ることになったのでした。
母親に褒められて見せた少年の顔
炭治郎たち後輩と、無限列車の乗客全員を守り抜いた煉獄さん。
最期に現れた母に、こう語りかけます。
母上、俺はちゃんとやれただろうか。やるべきこと、果たすべきことを全うできましたか?
煉獄さんは、これまで誰かに褒めて(認めて)もらうために頑張ってきたのではないと思います。
それでも、両親にだけは認めてもらいたかったのでしょうね。
父親からは、柱になったことを報告しても「どうでもいい」と言われてしまいましたが、最後の最後、母親の瑠火さんは、我が子・杏寿郎を褒め、その頑張りを認めてあげたのです。
劇場版では、煉獄さんがこの表情になるとき(口元アップのシーン)、日野聡さんが「息アドリブ」を入れています。これまでずっと頑張ってきた煉獄さんが、最後に母に褒められてホッとする瞬間、ぜひ聞いてみてください。
朱乃(あけの):継国縁壱の母
継国縁壱(つぎくによりいち)は戦国時代の剣士で、鬼の始祖・鬼舞辻無惨を死の淵にまで追い詰めた唯一の人物です。
また、上弦の壱・黒死牟(こくしぼう)の双子の弟でもあるため、朱乃さんは黒死牟にとっても母なのですが、次男であるが故に不遇な立場に追いやられた縁壱との繋がりが深かったため、ここでは「縁壱の母」として紹介します。
母の愛によって生き延びた縁壱
この時代、「武士の家で男の子を生む」、それはとても名誉なことだったと思います。
しかし朱乃さんが生んだのは男の子の双子で、それは「跡目争いの元となるので不吉」とされていたことでした。
跡目争いを危惧した父親は、弟の方を殺そうとしたのですが、朱乃さんが激怒。
普段は物静かでおとなしい人だったそうですので、父親はとても驚いたようです。
尚、兄の方は父親が「巌勝(みちかつ)」(後の黒死牟)と名づけ、弟の方の「縁壱」という名前は朱乃さんがつけています。
炭治郎の付けている「耳飾り」を作った人
あの耳飾りは、戦国時代に朱乃さんが作ったものでした。
太陽のモチーフには、我が子を思う母親の愛情が込められていたのですね。
縁壱は、二歳のときに父から「お前は災いをもたらす不吉な子だ」と言われ、自分の存在をできるだけ無くすために、口をきかないようにしていたそうだ。
亡くなったのは縁壱が7歳の時
父親と兄の巌勝は、朱乃さんが病気だったことを知りませんでした。
巌勝は、いつも母親にしがみついて歩いていた縁壱のことを「母親離れができない哀れな子」だと思っていたのです。
朱乃さんが亡くなると、縁壱はすぐそのことを兄に知らせに行き、同時に「自分はこのままお寺へ向かう」と告げて継国家を出ていきました。
父親がずっと危惧していた「跡目争い」を起こさないための配慮だったようです。
母の死後、父は母の「息子たちと3人で仲良く暮らして欲しい」という遺言を守るため、寺へ縁壱を迎えに行っている。しかしそこに縁壱はおらず、行方知れずになってしまったことに心を痛めていた。
縁壱の父親は、妻の朱乃さんを心から愛していたそうで、その後も再婚はしていません。
愛する妻を突然亡くし、その妻の遺言も守れず、体調を崩しがちになった父親は、長男・巌勝の結婚を見届けると、35歳でこの世を去っています。
尚、朱乃さんが作った耳飾りがどのように炭治郎に受け継がれたのかは、こちらの記事で詳しく解説しています。
また、継国縁壱につきましては、こちらの記事をご覧ください。
鬼に殺された母親
竈門葵枝(きえ):炭治郎&禰豆子の母
葵枝さんは、炭治郎を筆頭に6人の子供を育てている母親でした。
夫の炭十郎さんは優しい人ではありましたが、体が弱かったため、葵枝さんは家事以外の仕事もたくさんこなしていたと思われます。
そして幼い子供たちを残して夫は亡くなってしまいますが、長男の炭治郎や長女の禰豆子が家のことをたくさん手伝ってくれて、貧しいながらも平和で幸せな日々を送っていました。
町へ下りて炭を売るのは炭治郎の仕事
このときの炭治郎はまだ13歳でした。
しかし、おそらく母よりもずっと力持ちで体力もあり、葵枝さんも力仕事はもう炭治郎に任せていたのだと思います。
この日は雪が降りそうだったので、炭治郎について行きたがっていた下の子たちを説得し、炭治郎ひとりで山を下り、炭を売りに行ったのでした。
そして炭治郎が家族の元気な姿を見たのは、これが最後となったのです。
家族の中で、禰豆子だけが生き残った
炭治郎が家に帰ったときに見た光景は、家族全員が血を流して倒れているという悲惨なものでした。
ただひとり、温もりを残した禰豆子を背負って山を下りようとしますが、途中で鬼に変貌した禰豆子に襲われてしまいます。
更には鬼殺隊の冨岡義勇が禰豆子を襲ってきて、「殺さないでくれ!」と言う炭治郎の願いも聞き届けてくれません。
そして炭治郎は禰豆子を守るために捨て身で向かっていきますが、義勇からの一撃で気を失ってしまいます。
炭治郎に託した禰豆子への想い
「置きざりにしてごめんね、炭治郎。禰豆子を頼むわね」
これは炭治郎の夢の中ですが、おそらく葵枝さん自身も炭治郎にそう伝えたいと思っていたのではないでしょうか。
炭治郎と禰豆子以外の子供たちを守れず、自分も死んでしまい、本当に無念だったと思います。
しかし、炭治郎と禰豆子は生きているので、母として、なんとしてもこの二人には生き延びてほしいと願っていたはずです。
禰豆子に託した炭治郎への想い
「禰豆子、起きて。今の禰豆子ならできる、頑張って。お兄ちゃんまで死んでしまうわよ」
那田蜘蛛山で十二鬼月の下弦の伍・累と対峙した炭治郎は、圧倒的な力の差を見せつけられ、本当に死を意識した状態に陥っています。
確かに、この場面で炭治郎を救えるとしたら、それは禰豆子だけでした。
炭治郎の方は、走馬灯で父親がヒノカミ神楽を舞う姿を見て、そこから技を出していますが、禰豆子の「血鬼術・爆血」の力がなければ、きっと助からなかったでしょう。
死んでしまってはいても、子供たちのピンチのときに現れる葵枝さんは、「母親の子供への想いはずっと続いている」ということを教えてくれていますね。
嘴平琴葉(ことは):伊之助の母
伊之助は母親の記憶が全くなく、自分は親に捨てられた子だと思っていました。
それでも、野生の猪に育てられ、他の動物たちにも囲まれて、たくましく成長してきたのです。
母とは知らずに見た走馬灯
伊之助は、那田蜘蛛山で父蜘蛛と戦っていたときに初めて死を意識し、そのときに走馬灯を見ました。
しかし、その中で泣きながら自分の名前を呼んでいる女性を見て「誰だ?」と思っています。
私たちも「多分、あの人は伊之助のお母さんなんだろうな」と想像はできましたが、なぜ母親が伊之助を手放したのか、それを知ることができるのは、かなり先の無限城になります。
母は、DV夫から伊之助を守るために逃げた
伊之助の母・琴葉さんは、夫の暴力と姑からのいじめに耐えながら、赤ん坊だった伊之助を育てていました。
しかし、ある日その夫の暴力が伊之助にまで及んだことで、伊之助を連れて家を出ています。
自分に対する暴力には耐えられても、我が子に対する暴力は絶対に許せず、自分が守らなければいけないと、強く思ったのでしょう。
逃げた先は「上弦の弐・童磨」のところ
琴葉さんが逃げ込んだ先は、上弦の弐・童磨が教祖をしている寺院でした。
ただ、童磨は琴葉さんのことがとても気に入ったようで、また、琴葉さんも童磨は自分をかくまって助けてくれた恩人なので、初めのうちは楽しく暮らせていたようです。
それは、琴葉さんに抱かれている伊之助の表情からもわかりますね。
しかし、童磨が人喰い鬼だと気づいてしまい、そこからも逃げ出すことになるのです。
童磨から守るため、伊之助だけ逃がした
伊之助の見た走馬灯がこの場面です。
この後、琴葉さんは童磨に殺されてしまいますが、崖下の川に落とされた伊之助は生き延び、それを拾ってくれた(?)猪に育てられて大きくなったのです。
母親の仇を討った伊之助
伊之助は自分の母親のことを、無限城で遭遇した童磨から直接聞いています。
そして「自分は親に捨てられた」と思っていたのが、本当は「母親から深く愛されていた」ということを知ったのです。
同時に、目の前にいる童磨が母親の仇だということも知り、仲間と共に戦って仇討ちを成し遂げたのでした。
その伊之助と童磨の戦いは、こちらの記事で詳しく紹介しています。
鬼にされ、我が子を殺してしまった母親
幼い子供を残して病気で死んでしまうことも、鬼に殺されてしまうことも、どちらも母としてはとても辛いことです。
しかしいちばん辛かったのは、鬼にされてしまったとはいえ、自分で我が子を殺してしまったこの二人の母ではないかと思います。
不死川志津(しづ):実弥&玄弥の母
不死川兄弟の母・志津さんは、7人の子供を育てていました。
夫の恭梧(きょうご・敢えて呼び捨て)は、図体がデカいだけの「ろくでなし」で、志津さんはその小さい体で、子供たちを夫の暴力からも守っていました。
父親は他人からも恨まれていて、刺されて死んだ。自業自得だ。
その後も、長男の実弥&次男の玄弥とともに、幼い子供たちの面倒を見ながら家族仲良く暮らしていたのです。
鬼にされ、子供たちを襲った
ある日、母の帰りが遅いのを心配した実弥は、外へ捜しに出かけました。
そして玄関の戸が叩かれるのを聞いた下の子供たちが、母が帰ってきたと思って開けてしまったところ、鬼にされた志津さんが飛び込んできて、子供たちを襲ったのです。
すぐ後に飛び込んで来た実弥が母を抱え込み、かろうじて玄弥だけは助かりましたが、他の子たちは皆死んでしまいました。
母を殺したのは実弥
実弥は、家族を殺した鬼、つまり鬼になった母を殺しましたが、混乱していた弟の玄弥は兄を責めてしまいました。
後々、玄弥はこのことをとても後悔し、兄に謝りたいと思うようになります。
また、不死川兄弟は二人とも右頬に大きな傷がありますが、それが鬼になった母親につけられた傷だったということが、母親を抱えている玄弥と呆然としている実弥のシーンからわかりますね。
母と共に地獄へ行く決意をした実弥
鬼舞辻無惨戦で死力を尽くして戦った後、意識を失った実弥は母親の夢を見ます。
実弥は母を「他の子たちもいる方へ行こう」と促しますが、志津さんは「我が子を殺した自分はあっちへは行けない」と泣いて拒否。
そこで実弥は「自分は母と一緒に地獄へ行く」と言っています。
それを阻んだのが父親
言葉も態度も乱暴ですが、最後に父親らしい仕事をしてくれました。
自分が志津と地獄に行く、お前は天国にも地獄にも行けない、つまり「生きろ」と。
もちろん志津さんも、実弥には生きていて欲しかったでしょうから、これで良かったのだと思っているはずですね。
珠世
珠世さんの子供は作中で描かれていませんが、無惨と珠世さんのセリフから、かつては子供を持つ母親だったことがわかります。
珠世さんが鬼になったのは19歳のときですので、子供はまだ本当に幼い年齢だったでしょう。
鬼になったのは子供の成長を見届けるため
炭治郎が鬼殺隊に入って間もない頃、浅草で出会ったのが鬼の珠世さんです。
他の鬼たちとは明らかに違うたたずまいで、鬼舞辻無惨を憎んでいました。
珠世さんが無惨を憎んでいる理由はこれです。
鬼になれば死なずにすむ。子供のことをずっと見守っていられるぞ。
とでも言われたのでしょうか。
しかし、鬼になって人間を食べなければ生きていけなくなった珠世さんは、理性が効かない状態で夫と子供を食べて殺してしまったのです。
我が子を死なせてしまうぐらいなら、たとえ自分がその成長を見届けられなくても、自分が死んだ方がよっぽどマシだった、珠世さんはきっとそう思っていたでしょう。
鬼でありながら、理性を保って生き続けられた理由
珠世さんに無惨を倒す手助けを頼んでいるのは、7歳の時に家を出て、その後に鬼殺の剣士となった継国縁壱です。
つまり、この場面は戦国時代で、珠世さんはその時代にすでに鬼として生きていたことがわかりますね。
鬼である自分を見逃してくれた鬼狩りの剣士の言葉は、珠世さんの心に響いたのかもしれません。
医者でもある珠世さんは自分の体をいじって無惨の支配を外し、人間を食べずに少量の血を飲むだけで生きていけるように操作しています。
そして400年以上もの間、無惨を倒す機会を伺っていたのです。
迎えた穏やかな最期
珠世さんの肉体は無惨に吸収され、頭部は握り潰されて殺されています。
しかし、無惨が消滅して自身の細胞も消滅するときは、こんなに穏やかな表情をしていました。
何百年も望んできた無惨の死、それが叶って、ようやく我が子と夫に「終わりましたよ」と報告できたのでしょうね。
まとめ
ここでは6人の母親を紹介いたしましたが、まだ他にも記憶に残る母親は何人かいます。
鬼になった我が子に殺されたものの、最期はその我が子と共に地獄へ行くことを選んだ「下弦の伍・累の母」。
最終決戦で鬼殺隊の指揮を執っていた産屋敷輝利哉(きりや)の母「産屋敷あまね」。
病弱な我が子が自分より先に死んでしまうところを見たくなくて、自殺してしまった「恋雪(こゆき・猗窩座の人間時代の恋人)の母」。
母が皆強いというわけではないのかも知れませんが、我が子を愛する想いは、きっと同じです。
幅広い世代から支持されている『鬼滅の刃』ですが、他の作品に比べて特に母親世代からの人気が高いのは、きっと「母親目線で見られるから」というところが大きいのでしょうね。
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