【上弦の壱・黒死牟】最終形態の考察。誇り高き武士が醜い姿になった理由

十二鬼月
©吾峠呼世晴/集英社 公式ファンブック『鬼殺隊見聞録・弐』

「鬼の急所は頸」

鱗滝さんが炭治郎に言ったとおり、通常、鬼殺隊は日輪刀で鬼の頸を斬って倒します。

しかし、上弦の壱・黒死牟は、頸を斬られても頭部を再生させるシーンがありました。

ただ、その再生後の最終形態は元の姿とはかなり違っていて、黒死牟自身が困惑するほどでした。

今回は、その「黒死牟の最終形態」について考察してみたいと思います。

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黒死牟(こくしぼう)の最終形態はどんな姿?

上弦の壱・黒死牟は、無限城での戦いにおいて、岩柱・悲鳴嶼行冥と風柱・不死川実弥によって頸を落とされました。

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻

しかし、ここから頭部を再生し、最終形態を完成させています

それまで鬼舞辻無惨しか成し得なかった「頭部の完全再生」に成功し、「弱点を克服した=日の光に当たらない限り死なない」と一度は歓喜した黒死牟。

元々、黒死牟は誇り高き武士であり、鬼になってからも、そのたたずまいは他の鬼とは明らかに異なっていて、所作や話し方にも品格がありました。

しかし、再生したその姿は、誇り高き武士とはほど遠いものだったのです。

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻

黒死牟がこの姿に気づいたのは、風柱・不死川実弥の日輪刀に映った自分の姿を見たときで、あまりの醜さに愕然とします

なぜ頭部を再生させたとき、黒死牟は「化け物のような醜い姿」になってしまったのでしょうか。

その理由を「鬼になった経緯」と「鬼として生きてきた400年」から考察してみます。

黒死牟が鬼になった経緯

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第19巻

黒死牟は戦国時代、継国家という武士の家系に双子の兄として生まれています

人間のときの名前は継国巌勝(つぎくに・みちかつ)、武士らしく「ずっと勝ち続けられるように」との願いを込めて、父親が付けた名です。

そして双子の弟の名前は「縁壱(よりいち)」、後に鬼の始祖・鬼舞辻無惨を死の淵まで追い詰めるほどの剣士になる人物でした。

剣の天才『弟・継国縁壱』より強くなるため

子供のときから嫉妬していた弟の才能

巌勝と縁壱は同じ日に生まれた双子の兄弟でしたが、長男の巌勝だけが「継国家の跡継ぎ」として扱われ、次男の縁壱の方は食事も教育も着る物も、兄とは差をつけられて育ちました。

武士として身に付けるべき剣術も、巌勝だけが稽古をつけてもらっていたのです。

ところが7歳のとき、「自分もやってみたい」と言い出した縁壱に袋竹刀を持たせたところ、とてつもない才能を発揮

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻

このとき、兄弟の立場は逆転し、周りは「跡継ぎは巌勝ではなく縁壱に」と考え始めたのでした。

継国家の跡継ぎとして一生懸命頑張って修行していた巌勝でしたが、いとも簡単にそれを追い抜いた縁壱の才能を目の当たりにし、初めて「嫉妬」を覚えます

しかし、それから間もなく母親が亡くなり、縁壱はその後すぐに継国家を出て消息を絶ったため、そのまま巌勝が継国家の跡継ぎとなったのでした。

縁壱が母の死後すぐに家を出た理由は「自分が跡継ぎに据えられることを知って自ら身を引いた」ということだったのを、私は母が残していた日記で知った。

大人になって再会したことが「凶」と出た?

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻

縁壱が消息を絶ったことで平穏を手に入れた巌勝でしたが、大人になって鬼に襲われた日、その平穏が崩れることになります。

鬼から巌勝を救ったのは、幼い頃に生き別れになった弟の縁壱でした。

縁壱の剣技は子供の頃とは比べものにならないほど研磨されており、再び嫉妬に駆られた巌勝は、妻子を捨てて自身も鬼狩りになることを決意

しかしその目的は「鬼を滅殺すること」ではなく「縁壱より強くなること」だったのです。

絶望していたときに出遭った鬼舞辻無惨

巌勝の絶望とは

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻

巌勝は縁壱と同じ「鬼狩りの剣士」となりますが、縁壱の編みだした「日の呼吸(=始まりの呼吸)」を使えるようにはならず、劣等感を持っていました。

また、「寿命の前借り」と考えられていた痣が発現したことで、縁壱より強くなることが叶わないまま若くして死ぬと思い、絶望したのです。

そんなときに出遭ってしまったのが鬼舞辻無惨でした。

痣が「寿命の前借り」と言われていたのは、痣が発現したものは例外なく25の年を迎える前に死んでいたからだ。痣が発現すると、戦闘能力は飛躍的に上がるが、その分、心身の消耗も激しくなり、若くして死に至ってしまうというわけだ。

弱みにつけ込んだ鬼舞辻無惨

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻

無惨は「呼吸の使える剣士を鬼にしてみたい」と言っていましたので、その「呼吸の使える剣士」の中で、鬼側に落とせそうな人物を以前から物色していたのではないかと思われます。

そしてそのお眼鏡にかなってしまったのが巌勝だったのでしょう。

巌勝の修行してきた目的が「鬼を滅殺すること」だったなら、そもそも無惨からスカウトされることもなかったはず。

しかし、巌勝の目的は「縁壱に勝つこと」。

人間としての自分に残された時間はわずかでも、鬼になれば長い時を生きられる、そしてもっと強くなれる、そう考え、鬼に堕ちてしまったのでした。

黒死牟が鬼として生きてきた400年

弟・縁壱との最後の対決

弟の縁壱は、兄が鬼になったことと、鬼舞辻無惨をあと一歩のところまで追い詰めながら、分裂して逃亡を図った無惨にとどめを刺せなかったことを鬼殺隊仲間に咎められ、鬼殺隊を追われることになりました。

その後、縁壱の消息はまたわからなくなり、黒死牟は「すでに痣のある縁壱は若くして死んだ」と思っていたようです。

しかし60年余り後、兄弟は再会、黒死牟は縁壱が生きていたことに驚きを隠せませんでした。

そして、二人は最初で最後の真剣勝負に挑んだのです。

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻

80歳を超えているはずの縁壱の剣技は衰えておらず、黒死牟は次の一手で頸を落とされることを覚悟しますが、その「次の一手」を繰り出す前に、縁壱は寿命が尽きていました

つまり黒死牟は、縁壱に勝つ機会を永遠に失ったのです。

このときの縁壱の思いとは

おそらく縁壱は、自分の寿命が迫っていることを感じ取っていたのだと思います。

そしてその前に、鬼になった兄を自分の手で倒さねばと、黒死牟の前に現れたのではないでしょうか。

©吾峠呼世晴/集英社 Demon Slayer Vol. 20

ここでは、縁壱の心の中をより深く読み取れる英語版から考えてみます。

日本語では「お労しや、兄上」と言っているシーンですが、「お労しい」を表わしている「sympathy」が「sympathies」と複数形になっていますね。

つまり「お労しいと思っていることが複数ある」ということになります。

縁壱が兄に対して「お労しい」と思っているのは「鬼になってしまった」という結果だけではありません。

それによって失ったもの、そして失ったものに兄が気づいてさえいないことなど、そういった全てに対して哀れんでいるのです。

自分が大好きだった、真面目で優しい兄の姿はもうそこにはなく、目の前の「哀れな兄」を、せめて自分の手で葬りたい、それがこのときの縁壱の思いだったのではないでしょうか。

しかし、とどめを刺す前に寿命が尽き、縁壱の思いもまた果たされないまま終わったのでした。

『上弦の壱』に君臨

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第12巻

鬼舞辻無惨が「十二体の強い鬼(=十二鬼月)を作る」と決めたとき、最上位の『上弦の壱』という称号を与えるにふさわしいのは「黒死牟しかいない」と思っていたでしょう。

上弦の陸が倒されて無限城に他の上弦の鬼たちが集結したときも、黒死牟だけ個室のようなところに呼ばれていて、同じ上弦でも他の鬼とは違う扱いを受けていることが伺えます

実際、黒死牟はその『上弦の壱』の座を誰にも譲ったことがなく、全てにおいて秀でていたのは間違いありません。

それでも、黒死牟がいちばん勝ちたいと思っていた相手(=弟の縁壱)はすでに亡く、どれだけ強くなろうと、その心が満たされることはありませんでした

過去を思い出させた鬼殺隊

最終決戦地となった無限城で、黒死牟は4人の鬼殺隊士と同時に戦っています。

その中で、黒死牟が自分の過去を思い出す状況が二つありました。

自分の末裔:霞柱・時透無一郎

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第19巻

鬼となった者には、人間の『血』の種類を察知する力が備わっていました。

人間の血肉を食らう鬼ならではの能力といえるでしょう。

そして、無一郎を見た瞬間に、懐かしい気配を感じた黒死牟。

黒死牟は人間だった頃に妻と子供がいて、無一郎はその子供から繋がる末裔だったのです。

自分の子孫に出会えたこと、そしてその子孫がまだ少年という年齢で鬼殺隊の『柱』になっていることに対し、感慨深いものを覚えます。

さらにこの後、無一郎を鬼にしようとしていたほど気に入った様子でした。

兄弟で鬼殺隊士:風柱・不死川実弥&玄弥

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第19巻

不死川兄弟を見て、かつては自分と縁壱も「兄弟で鬼殺隊士」だったことを思い出す黒死牟。

特に兄の実弥の方は『柱』の中でも実力上位であると認識し、黒死牟も自分の力を見せ始めます。

そしてそこに最強の柱・悲鳴嶼行冥も加わり、戦いを続けていくうちに、黒死牟の力にも少しずつ陰りが見え始めました。

最後まで心の中にいた弟・縁壱

頸を落とされても頭部を再生させた黒死牟でしたが、不死川実弥の日輪刀に映ったこの姿に愕然とします。

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻
©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻

そのとき、幼い頃に弟・縁壱に言われた言葉を思い出した黒死牟。

そして『侍』とはほど遠いこの姿を恥じた瞬間、黒死牟の敗北は決まったのです。

自分はまだ戦えると言いながら、次に思い出したのもまた縁壱の言葉でした。

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻

黒死牟は、この縁壱が言った言葉本当の意味を、自身の体が崩壊するときにようやく理解したのでした。

まとめ

黒死牟の「化け物のような醜い最終形態」、それは、心の中にずっとあった弟・縁壱への嫉妬心と、武士としての誇りを失った自分自身への戒めが形になって表れたものでした。

そしてその姿が崩壊するのを止められなかったのは、「こんな姿のまま、こんな思いのまま、生き続けるのはもうやめたい」と、心の奥底では思っていたからなのでしょう。

黒死牟を倒したのは、悲鳴嶼行冥、不死川実弥、時透無一郎、そして不死川玄弥の4人でした。

しかし、何百年経っても心から消えなかった弟の縁壱、そして最後に自分の本心を認めた「巌勝」自身も、「黒死牟」という鬼を滅ぼした人物だったと言えるのではないでしょうか。

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第20巻
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