【冨岡義勇と不死川実弥】最後まで生き残った柱はなぜこの二人だったのか?

冨岡義勇(とみおか ぎゆう)
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

『鬼滅の刃』は、鬼をこの世から殲滅(せんめつ)するために戦う物語です。

しかし、そこにたどり着くまでには数多くの命が失われていき、それは鬼殺隊の柱であっても例外ではありませんでした。

最後まで鬼と戦い、生き残った柱はたった二人だけで、その二人が水柱・冨岡義勇風柱・不死川実弥でした。

今回は「なぜ最後まで生き残るキャラとしてこの二人が選ばれたのか」という視点で考察してみたいと思います。

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冨岡義勇と不死川実弥の描かれ方

二人は共に鬼殺隊の『柱』であり、年齢も同じ21歳です。

しかし、主人公の竈門炭治郎と禰豆子の兄妹に対する姿勢は両極端でした。

『竈門炭治郎立志編』で描かれた彼らの対照的な姿は、最終的に生き残るキャラとしての伏線が張られていたと考えられます。

冨岡義勇の場合

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鬼殺隊本部では、炭治郎が鬼の妹・禰豆子を連れていることに対しての裁判が行われました。

そこでは炭治郎だけでなく、鬼の禰豆子を見逃した義勇に対しても処罰を科すことを求められます

ただ、そのことについて義勇本人が何も言葉を発しなかったのは、おそらくお館様が容認していたことを知っていたからだったのでしょう。

そして、もし罰せられることがあっても、すべて受け入れる覚悟もできていたのだと思います。

お館様に宛てた鱗滝さんの手紙の内容からも、その決意の程を伺い知ることができますね。

もし禰豆子が人に襲いかかった場合には、竈門炭治郎、及び鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫びいたします。

コミック第6巻

冨岡義勇は、炭治郎と禰豆子の気持ちに寄り添うことで二人を守ろうとしている存在でした。

不死川実弥の場合

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その鱗滝さんの手紙に対して、不死川実弥はこう言っています。

「切腹するから何だというのか。死にたいなら勝手に死に腐れよ。何の保証にもなりはしません」

そしてこの後、自分の腕を切りつけ血を流して禰豆子を挑発し、さらに禰豆子を箱の上から3度も刺しています。

不死川実弥は、荒っぽいやり方ではありましたが、炭治郎と禰豆子に「鬼を生かしておくことの厳しさ」を教えてくれた存在でした。

では、義勇と実弥がそれぞれ竈門兄妹へどのような思いを持っていたのか、考察してみます。

導き守ることに徹した冨岡義勇

禰豆子を最初に認めた鬼殺隊士

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冨岡義勇も、炭治郎&禰豆子と出会った直後は禰豆子の頸を斬ろうと攻撃してきました。

しかし、人間の兄をかばう姿勢をとった禰豆子と、鬼の妹にかばわれた炭治郎に対して「こいつらは何か違うのかもしれない」と思い至り、禰豆子を生かしたまま、二人を自身の師匠である鱗滝左近次へ託しています。

生き残った妹は鬼に変貌していますが、人間を襲わないと判断致しました。この二人には何か他とは違うものを感じます。

那田蜘蛛山で兄妹に再会

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鱗滝さんに二人を託したあと、義勇が竈門兄妹のその後を知っていたかどうかは明らかにされていません。

しかし、少なくとも最終選別を突破して鬼殺隊に入隊していたことは、鱗滝さんから聞いていたのではないかと思います。

ただ、炭治郎が那田蜘蛛山に派遣されていたことはさすがに知らなかったようで、下弦の伍・累を倒した後、竹を噛んだ禰豆子の姿を見て初めて「あのときの兄妹か」と気づいたのでした。

那田蜘蛛山での役割

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お館様が那田蜘蛛山へ派遣する柱のひとりに胡蝶しのぶを選んだのは、蜘蛛の毒に侵された隊員が多数いるとの報告を受けていたからでしょう。

そしてもうひとりを冨岡義勇にしたのは、万一のときに炭治郎と禰豆子を守らせるためだったと考えられます。

お館様は、那田蜘蛛山へ派遣した隊員のことはすべて把握していたはずですからね。

炭治郎と禰豆子のことを何も知らない胡蝶しのぶは、鬼である禰豆子の気配を察知するとすぐに向かってきましたが、それを阻んだのが義勇でした。

正論のしのぶに対抗

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義勇から動きを封じられると、腕力ではとうていかなわない胡蝶しのぶは、かかとから刃を出して義勇に向けて蹴り上げています。

このときの胡蝶しのぶは鬼の禰豆子を追って始末することを第一に考えており、「その邪魔をする者は、たとえ柱であっても許さない」という強い意志がありました。

一方の義勇も、しのぶの正当性は十分に理解しつつ、それでも「妹を人間に戻す」という強い意志を持って戦う炭治郎と、人間を襲っていない禰豆子を守るために、一歩も引かなかったのです。

冨岡義勇は、最初に竈門兄妹を認めた鬼殺隊士であり、自分を認めさせたこの兄妹へ特別な思いを持っていたことは間違いないでしょう。

そしてもちろん炭治郎も、自分たちを鬼殺隊に導き、禰豆子が人を襲ったときには腹を切る覚悟までしてくれている義勇には感謝してもしきれない思いがあったはず。

炭治郎にとっての冨岡義勇は、自分たち兄妹の大恩人であり、また、禰豆子を守り通して人間に戻すことが、その恩に報いる唯一の方法でした。

それを見届けてもらうためには、義勇には最後まで生き残ってもらわねばならない存在だったのです。

厳しさを教えた不死川実弥

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不死川実弥は、産屋敷邸に集結した柱の中で最後に姿を現し、炭治郎&禰豆子に対していちばん敵意をむき出しにしていました。

それは、他のどの隊士とも違う壮絶な過去が関係していたのです。

家族を殺したのは鬼になった母、その母を殺したのが実弥

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第13巻

不死川実弥は7人兄弟の長男で、すぐ下の弟が炭治郎と同期になる玄弥でした。

ある時、二人の母親は鬼にされ、自分の子供たちを襲って殺してしまいます。

そしてその鬼になった母親を殺したのが実弥でした。

つまり、実弥は鬼に家族を殺される悲しみと、鬼にされてしまった家族を自分が手にかける苦しみ、両方を味わってしまったことになります。

産屋敷邸での態度が頑なだった理由

実弥は他の柱たちと同じく、お館様を尊敬していました。

それにも関わらず、そのお館様から「認めて欲しい」と言われた竈門兄妹に対して、認めることを頑なに拒否しています。

それはなぜだったのでしょうか。

鬼が豹変することを知っていた

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「人間ならば生かしておいてもいいが、鬼は駄目です。承知できない」

実弥と玄弥の母親は、大柄で暴力的な夫から子供たちを守ってくれた勇敢で優しい人でした。

しかし鬼になった母親は、なによりも大事にしていた自分の子供たちを襲っています

どんなに優しい人間でも、どんなに大事な人がいても、鬼になってしまうと理性がなくなることを目の当たりにした実弥は、鬼は何があろうと信用してはいけない、すぐ殺さなければいけないと、誰よりも強く思っていたに違いありません。

禰豆子が鬼になってから2年以上も人を殺していないことを説明されても、お館様が認めているという状況であっても、それを拒否する姿勢を崩さなかったのはそのためだったのです。

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ただ、自分の稀血に惑わされなかった禰豆子には驚いていました。

そのような鬼に会ったのはおそらく初めてだったのでしょう。

このことで、渋々ながらお館様に従うことにした実弥ですが、それでも心の中では決して炭治郎と禰豆子を認めてはいなかったのです。

事実、禰豆子は遊郭で豹変

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産屋敷邸では禰豆子を認めざるを得ない状況になりましたが、遊郭編において禰豆子は変貌します。

実弥の「人間ならば生かしておいてもいいが鬼は駄目です」、このセリフの意味を痛感する場面でもありました。

禰豆子がこの姿になったのは『上弦の陸』と戦って兄を守るためでしたが、鬼化が進んでしまった結果、それまで保っていた理性が崩れ、人間にも襲いかかろうとしてしまいます

なんとか炭治郎が止めに入れたから良かったものの、それまでの禰豆子からは考えられない豹変ぶりでした。

実弥は先の先まで読んでいた?

ここからは、本当の思いと周囲に見せる言動との乖離が大きい不死川実弥というキャラクターに対し、少し強引な考察をしていきます。

実弥は作中、好戦的な態度をとっている場面が多く見られますが、元来は優しい青年であったことが、弟の玄弥のセリフからわかっています。

ならば実弥の炭治郎&禰豆子への態度の裏には、もしかしたら彼ならではの優しさが隠れていたかもしれない、そうは考えられないでしょうか。

禰豆子への態度は悪役を引き受けるため

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

もし禰豆子が人を襲った場合、炭治郎はその場で切腹する覚悟があることを、実弥は産屋敷邸で読み上げられた鱗滝さんからの手紙により知りました。

それと同時に「炭治郎は自分の腹を切る前に、妹の禰豆子の頸を斬ることになる」ということも理解したはずです。

そしてそれがどれほど辛いことか、鬼になった母親を手にかけてしまっていた実弥は、その気持ちを誰よりもよくわかっていました。

産屋敷邸で禰豆子を斬ろうとしていた背景には、もしかすると根底に「家族には斬らせたくない」という思いがあったからかもしれません。

それでも最初に頸を狙わなかったのは実弥の優しさ

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ただ、実弥はすぐさま禰豆子の頸を斬る、ということはせず、「刺す」という行為を繰り返していました。

それは、尊敬するお館様から「認めてほしい」と言われた手前、いきなり頸を刎ねる暴挙に出ることを慎んだ部分もあったでしょう。

しかし、皆に、特に炭治郎に「鬼というものはこういう(必ず人を襲う)ものだ」ということを見せつけてから他人である自分が手にかけることで、有無を言わさずこの問題を終わらせようとした、とも考えられるのではないでしょうか。

ところが実際は禰豆子が自分を襲ってこなかったために、どちらにせよ、ここでの実弥の思いは不完全燃焼のまま終わったのでした。

しかし、もしその後も禰豆子が一人の人間も襲うことなく人間に戻れたなら、それは実弥にとっても「あのときいきなり頸を斬らなかった」という行動が報われた形になります。

そういう意味では、柱の中で鬼をいちばん憎んでいたと思われる実弥は、義勇と同じぐらい「鬼から人間に戻った禰豆子」を見せたかった柱だったのではないでしょうか。

家族に守られた二人

実は冨岡義勇と不死川実弥は、たった一人だけの家族に命をかけて守ってもらったという共通点もあります。

姉に守られた冨岡義勇

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冨岡義勇には年の離れた姉・蔦子(つたこ)がいました。

小さい頃に両親が病気で亡くなっているため、蔦子は親代わりでもありました。

しかしある日、家に鬼が入ってきてしまい、蔦子は弟の義勇を隠して必死で守ったのですが、その結果、蔦子自身は鬼に殺されてしまいます。

それは、蔦子の祝言の前日のことでした。

鬼に襲われたことを誰も信じてくれず、周りから「この子は心の病を患っている」と思われてしまった義勇は、遠い親戚の医者の所へ連れて行かれる途中で逃げ出します。

そして道で倒れていたところを助けられ、預けられた先が鱗滝さんのところでした。

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鱗滝さんは身寄りのない子供たちを引き取って育てていて、義勇もそのひとりとなったのです。

この出会いが、後に炭治郎をも鬼殺隊へと導くことに繋がっていったのでした。

義勇が炭治郎を鱗滝さんに託したのは、もちろん自分の師匠で信頼していたからではあるのですが「身寄りのない子供を引き取って育てていた子供好きの鱗滝さんなら、禰豆子の世話もまかせられる」との思いもあったのかもしれませんね。

弟に守られた不死川実弥

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不死川実弥の弟・玄弥は、鬼になった母親に襲われてはいますが、奇跡的に軽傷で済み、家族の中で実弥と共に二人だけ生き残っています。

しかし、母親を殺した兄の姿を見て混乱し「人殺し!」と言ってしまい、以後、二人は別々に暮らしていたようです。

ただ、そのときの状況を後で冷静になって思い出した玄弥は、兄が母親を殺したのは自分を守るためだったのだと理解し、兄に会って謝るため、自分も鬼殺隊に入ることを決意

しかし、それはただ単に謝るためだけではなく、今度は自分が兄を守りたいとの思いもあったのでした

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第21巻

そして兄弟が一緒に戦った『上弦の壱・黒死牟戦』では、玄弥は兄のことを守り抜き、自身は命を落とします。

鬼喰いをしていたために体が崩壊、消滅し、実弥は悲しみの中、最愛の弟の亡骸を抱き締めることすらかないませんでした。

このときの実弥の絶望は察するに余りありますが、命がけで自分を守ってくれた弟の思いを胸に鬼舞辻無惨とも戦い、最後は家族全員の思いを受け継いで生き残ったのです。

まとめ

主人公の竈門炭治郎と禰豆子の兄妹にとって、いちばん先に、そして最も自分たちに寄り添ってくれた柱が義勇であり、最も厳しく当たってきた柱が実弥でした。

そして最後まで戦って生き残った柱は、その冨岡義勇と不死川実弥の二人だけ。

彼らは、人間に戻った禰豆子をいちばん見て欲しかった二人でもありました。

また、この二人が最後まで生き残ったことで、彼らを守り抜いて命を落とした家族も報われたことになりますね。

それは作中に描かれたたくさんの絆の中でも「家族の絆」にいちばんの重きを置いてきた『鬼滅の刃』において、とても重要な意味を持つ結末だったのではないかと思いました。

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