【禰豆子と堕姫】それぞれの強さの原動力。強く優しい兄への信頼と愛情

竈門禰豆子(かまど ねずこ)

鬼滅の刃『遊郭編』で大きく心打たれたのは、人間と鬼、双方の『兄妹の絆』でした。

どちらも自分の意志とは無関係な状況で鬼になっている禰豆子と堕姫、この二人には「強く優しい兄がいる」という共通点があります。

今回は、それぞれの強さの原動力が『兄』に大きく関係していたという考察をしてみます。

竈門禰豆子と堕姫の強さ

遊郭編で、鬼舞辻無惨は堕姫にこんな頼みをしていました。

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

堕姫、私の支配から逃れた鬼がいる、珠世のように。見つけて始末してくれ、お前にしか頼めない。

日輪刀を持たない鬼が『鬼』を始末するには、那田蜘蛛山で累がしていたように、動きを封じて日の光で焼き殺すか、食べて殺すしかありません。

しかし、いずれにしても圧倒的な力の差がなければできないことです。

つまり、無惨は禰豆子のことを「堕姫ならば簡単に始末できる相手」と考えていたということですね。

そしておそらくは堕姫もそう思っていたでしょう、なんと言っても自身は『上弦の陸』なのですから。

しかし、それがそう簡単にはいきませんでした。

禰豆子の強さ

禰豆子は鬼になった直後から鬼舞辻無惨の支配を(無意識ではありますが)解いていました。

また、人の血肉も喰らわないため、その時点で他の鬼とは明らかに違う力を持っていたと考えられます。

無限列車編までの禰豆子

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

禰豆子は鬼殺隊士となった兄の炭治郎と一緒に鬼と戦い、たくさんの人の命を救ってきました。

そして戦うごとに強さを増していき、人間を守るという強い使命もはっきりと持っていて、無限列車編では炎柱・煉獄杏寿郎が「鬼殺隊の一員と認める」と言ってくれたほどです。

ただ、ここまでの禰豆子は、血鬼術を使う以外は『鬼』というより人間的なところを多分に残していたように見えました。

遊郭編での禰豆子

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

ところが、遊郭編での禰豆子は、それまでの可愛らしい姿が一変します。

体は人間だったときよりも大きくなり、頭から角を生やし、口にくわえていた竹を噛み砕くという豹変ぶり。

最初こそ堕姫にやられっぱなしだったものの、戦いの中で急激に強さを増し、胴体や四肢を切断されてもすぐ再生、その力は上弦の鬼である堕姫をもしのぐほどになっていきました。

そして攻撃の矛先は堕姫だけにとどまらず、人間にも向かってしまいます

宇髄天元の言葉を借りれば「派手に鬼化が進んだ」、そのせいで、それまで保っていた理性を失ってしまったわけですね。

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

すんでのところで炭治郎が止めに入り、人間を傷付ける事態にはなりませんでしたが、本当に危険な場面でした。

もし禰豆子が人を襲ってしまったら、炭治郎だけではなく、師匠の鱗滝左近次、そして鬼殺隊へと導いてくれた水柱・冨岡義勇までもが腹を切らなければならないのです。

しかし、禰豆子をそこまでにさせたのは「兄を、人間を守らなければ」という使命感であることは間違いなく、その思いが強すぎたが故の豹変でした。

堕姫の強さ

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

『上弦の陸』の本体は兄の妓夫太郎ですが、堕姫自身も鬼殺隊の柱を7人も殺している立派な上弦の鬼でした。

遊郭編ではヒノカミ神楽を連続で使えるほど強くなっていた炭治郎でしたが、それでも一人ではとうてい堕姫に及びません。

このときの堕姫はまだまだ全然本気ではなかったにもかかわらず、一方的で苦しい戦いを強いられています。

堕姫と他の鬼との違い

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

他の鬼たちが必要以上に人間の前には姿を現さないのとは対照的に、堕姫はとても目立つ「花魁」として遊郭に棲んでいました

それは人間だった頃に「まともに人間扱いされなかった」という過去から、「今は自分が支配している」という優越に浸りたかった気持ちの表れでもあったでしょう。

ただし、同じ店に若い姿のまま何十年も居続けるのは不自然なので、およそ10年ごとに店と顔を変えていたそうです。

宇髄天元には歯が立たなかった理由

100年以上も上弦に君臨していた堕姫でしたが、遊郭編では音柱・宇髄天元にあっさり頸を斬られていました。

お前、上弦の鬼じゃねえだろ、弱すぎなんだよ。

実は、このことのヒントとなる場面が『立志編』で描かれていました。

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

「今ここにいる柱は、戦国の時代、始まりの呼吸の剣士以来の精鋭たちがそろったと思っている」

これはアニメオリジナルの、柱合会議でのお館様のセリフです。

つまり、宇髄も含めた現在の『柱』は、これまで堕姫が相手にしてきた柱たちよりも強い、ということになるのではないでしょうか。

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第15巻

「刀鍛冶の里編」の後に行われる柱合会議で、お館様の妻・あまね様のセリフにある「はっきりと記し残されていた」という部分から、煉獄家と同じように鬼殺隊本部にも『歴代鬼殺隊当主の書』のようなものが存在していたことがわかります。

そしてその書物と伝承により、現在のお館様でも過去の鬼殺隊の状況を知ることができていたと考えられますね。

直接比べることはできなくても、代々伝えられてきた歴代の柱たちの戦いぶりなどと比較し、現在の柱が過去の柱たちよりも優れていると確信を持っていたのだと思います。

堕姫の手に負えなかった柱も過去に15人いた

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第10巻

堕姫は過去に7人の柱を食べていますが、妓夫太郎はさらに多く15人でした。

妓夫太郎が姿を現すのは、堕姫の手に負えない相手に遭遇したときだけと思われますので、その妓夫太郎が食べた15人は、堕姫だけでは倒せなかった柱だったのでしょう。

しかし、今回の宇髄天元は、部下の鬼殺隊員たちと共に戦っていたとはいえ、100年以上も上弦に居続けたこの兄妹を見事に倒しています。

つまり、堕姫が弱いというよりは「今回は相手が悪かった=宇髄が強すぎたと考えるべきでしょうね。

もちろん、その「強さ」とは単に力や技だけを指すものではなく、後輩たちを統率し、彼らの力を引き出すところまで含まれます。

竈門禰豆子と堕姫、兄への依存度は?

この二人の共通点は、なんと言っても「強くて優しい兄がいる」ということです。

どちらの兄も、妹の存在が戦いの原動力と言えるでしょう。

では、自分を守ってくれているその『兄』を、妹たちはどれぐらい頼りにしているのでしょうか。

禰豆子の兄への依存度:50%

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

兄である炭治郎は、鬼にされてしまった妹の禰豆子を人間に戻すために命がけで鬼と戦い、「自分が禰豆子を守る」という強い思いを持っています。

その一方で、禰豆子も「自分がお兄ちゃんを守る」という強い思いを持っています

それは、今は自分が『鬼』という強い立場だからということもありますが、それだけではないようですね。

鬼になる前から兄思いだった

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

禰豆子は確かに炭治郎の妹ですが、それと同時に、禰豆子自身が弟と妹のいる『姉』でもありました。

ですので、兄に頼るよりも「自分も一緒に弟や妹を守る」という気持ちを強く持っていたのだと思います。

言い方を変えれば「お兄ちゃん一人に負担をかけたくない」ということでもあったでしょう。

鬼の禰豆子が戦いの中でどんどん強くなっていったのは、目の前の強い相手から兄を守る、今それができるのは私だけ、そういう思いがあったからに違いありません。

堕姫の兄への依存度:100%

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

堕姫の場合は、とにかく兄に頼りっぱなしでした。

鬼になってからは特に勝手気ままに振る舞っていましたが、そんなことができたのも「いざというときはお兄ちゃんが助けてくれる」と信じて疑わなかったからです。

そして妹に好き勝手させていたのは、兄の妓夫太郎がそう望んでいたからでもありました。

兄の自慢だった妹

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

堕姫の人間時代の名前は「梅」です。

妓夫太郎いわく「母親の病気の名前からとった」とのことですので、その病気とは「梅毒」だったのでしょうね。

妓夫太郎の顔は母親の病気の影響を受けていましたが、梅にはその影響はなく、とても綺麗な顔をしています。

遊郭の最下層の家に生まれた二人は、親もいない状態で貧しい暮らしをしていましたが、美しさがすべての価値基準であるその場所で、梅の美貌は妓夫太郎にとって大変誇らしいものでした。

状況が一変した事件

ところが梅が13歳のとき、ある事件が起こります。

梅が客の侍の目を簪(かんざし)で突いて失明させてしまい、その報復として生きたまま焼かれてしまったのです。

そのとき仕事で梅と別行動をとっていた妓夫太郎は、その事を後で知ったのでした。

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

このとき梅が侍の目を突いたのは、自分自身を守るためではなく妓夫太郎を侮辱されたからだったのですが、妓夫太郎は「自分が梅の育て方を間違えたせいだ」思い込んでいて、真相は知らないままでした。

もっとも、梅は侍に怪我をさせた後すぐに焼かれてしまったので、そもそも兄に真相を話す機会自体がなかったのですが。

二人を救ってくれた初めての存在は『鬼』

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

どうしたどうした、可哀想に。俺は優しいから放っておけないぜ

二人が行き倒れになる寸前に助けてくれたのが、上弦の弐(当時は陸)・童磨でした。

このとき童磨に出遭わなければ二人は死んでしまっていたでしょう。

そして妓夫太郎は、自分が生きていくためというよりは妹の梅を死なせないために鬼になったのです。

二人そろって鬼にしてもらったことで、普段は美しい堕姫の姿で花魁として人間の中に紛れ込み、人間時代にできなかった華やかで贅沢な暮らしができるようになりました

おそらくそれは、妓夫太郎が妹にしてやりたいと思っていたことだったに違いありません。

鬼狩りが現れても、それが強い柱だったとしても、妓夫太郎にかなう相手は100年以上も現れておらず、この兄妹は「鬼としての平穏な暮らし」を長く楽しんでいたことになりますね。

戦いの後の兄妹

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

遊郭での戦いで、兄・妓夫太郎は宇髄と炭治郎が、妹・堕姫は善逸と伊之助がそれぞれ倒しています。

しかし、頸を斬ってそれで終わりではなく、それぞれの戦いや葛藤はまだ続いていました。

禰豆子と炭治郎

妓夫太郎と堕姫、両方の頸を斬って戦いには勝ったものの、宇髄、炭治郎、そして伊之助の3人は妓夫太郎の猛毒に侵され、そのままでは3人とも命を落としてしまうような危険な状態でした。

それを救ったのは禰豆子です。

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

禰豆子の血鬼術は「自分の血で鬼を燃やす」というものですが、鬼本体だけではなく鬼が作り出したものに対しても効果がありました。

無限列車で炭治郎以外の3人(煉獄さん、善逸、伊之助)が夢から覚めたのは、禰豆子が血鬼術で切符を燃やしたからです。

それと同じように、今回の妓夫太郎の毒も禰豆子の血鬼術によって効力がなくなり、3人は命を取り留めたのでした。

堕姫と妓夫太郎

頸を斬られた直後は、悔しさのあまり妓夫太郎に八つ当たりをしていた堕姫。

しかし梅に戻った後、兄に甘えてばかりいた自分を反省し、謝る姿がありました。

©吾峠呼世晴/集英社 コミック第12巻

そんな梅に対し、妓夫太郎は内心嬉しく思いながらも、態度では妹を冷たく突き放します。

地獄へ行くのは自分一人で十分だと思ったのでしょう。

そもそも、妓夫太郎は「梅がこうなったのは自分のせい。自分の妹でなかったら幸せになっていたかも知れない」と思っていましたからね。

ところが梅は兄に飛びついて「絶対に離れない!」と泣き叫びます。

それは幼い頃に兄が約束してくれたことを、今でも信じていたからでした。

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

「俺たちは二人なら最強だ。寒いのも腹ペコなのも全然へっちゃら。約束する、ずっと一緒だ、絶対離れない。ほら、もう何も怖くないだろ?」

梅にとっていちばん辛いのは、地獄に行くことではなく、大好きな兄と離ればなれになることだったのです。

そして妓夫太郎もそのことを理解し、最後は梅を背負って一緒に地獄へ旅立って行ったのでした。

まとめ

禰豆子の強さの原動力は「私を命がけで守ってくれるお兄ちゃんを、私も絶対守る」という、兄と対等な愛情と信頼から来るものでした。

一方の堕姫は「お兄ちゃんは何があっても絶対に私を守ってくれる」という、一方的な甘えとも言えるものでした。

ただ、その兄に対する「疑いのない真っ直ぐな甘え」こそが妓夫太郎にとっての原動力だったとしたら、それは決して一方的なものではなく、この二人ならではの愛情と信頼の形だったと言えるのかもしれません。

そういえば、禰豆子も戦っていない場面では、幼子のように炭治郎に甘えていますね。

『鬼』という過酷な環境に置かれた禰豆子と堕姫ですが、兄が自分を守ってくれているという100%の信頼感と安心感が、自分の中の強さを引き出せる原動力になっていたのだと思います。

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