竈門炭治郎が使う「ヒノカミ神楽」、これは元々、戦国時代に実在した天才剣士・継国縁壱(つぎくに・よりいち)が編み出した「日の呼吸」を継承したもの。
現在の鬼殺隊士たちが使う他の呼吸はすべて「日の呼吸」から派生したものであり、ゆえにこの呼吸は「始まりの呼吸」とも呼ばれます。
ただ、『鬼滅の刃』の中で「日の呼吸」を使っているのは、継国縁壱と炭治郎の二人だけ。
今回は、なぜ戦国時代の剣士に編み出された呼吸が、大正時代まで誰にも使われなかったのか、そしてなぜ「ヒノカミ神楽」として残っていたのかを検証していきます。
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竈門炭治郎の「ヒノカミ神楽」と「日の呼吸」
竈門炭治郎は、那田蜘蛛山で下弦の伍・累と戦ったときに、初めて「ヒノカミ神楽」という技を出しています。
しかし、このヒノカミ神楽、炭治郎にとっては「攻撃のためのもの」ではなく、神楽という名前のとおり「舞い」でしかありませんでした。
命の危険を感じたとき、とっさにヒノカミ神楽で技を出せたことに、炭治郎自身が驚いていたほどです。
ヒノカミ神楽は「火の呼吸」?
「うちは火の仕事をするから、怪我や災いが起きないよう、年の初めには“ヒノカミ様”に舞いを捧げてお祈りするの」
コミック第5巻
母の葵枝(きえ)さんから、ヒノカミ神楽についてこのように教えられていた炭治郎は、最初、ヒノカミ神楽の呼吸は「火の呼吸」ではないかと思っていました。
しかし、蝶屋敷で蟲柱・胡蝶しのぶに尋ねたところ、柱であるしのぶでさえ「ヒノカミ神楽」も「火の呼吸」も聞いたことがないとのこと。
ただし、「火」と近い「炎の呼吸」の使い手に尋ねるとよいかもしれないと助言され、炭治郎は無限列車で炎柱・煉獄杏寿郎に直接聞いてみたのです。
「火の呼吸」ではなく「日の呼吸」
何かわかるかもしれないと思って少しは期待をしていた炭治郎でしたが、あっさりと打ち切られてガッカリ。
でもここまではっきりと「知らん!」と言い切られては、本当に何も知らなかったのだと思うしかないでしょう。
ところが、ヒノカミ神楽が「火の呼吸」ではなく「日の呼吸」だということを教えてくれた人物がいました。
煉獄杏寿郎の父で、前の炎柱である煉獄槇寿郎です。
炭治郎はこのとき初めて「日の呼吸」というものがあったことを知りました。
「日の呼吸」はすべての呼吸の始まりであり、他の呼吸はそこから派生したものだったのです。
代々煉獄家に伝わる『歴代炎柱の書』にそう記されていたのですが、煉獄杏寿郎はその書を読んだことがなかったために、「日の呼吸」を知らなかったのでした。
なぜ煉獄杏寿郎は『歴代炎柱の書』を読まなかったのか?
「柱になったから何だ。くだらん、どうでもいい。どうせ大したものにはなれないんだ、お前も俺も」
コミック第7巻
杏寿郎の父・槇寿郎は『歴代炎柱の書』を読み、「日の呼吸」が最強であることを知りました。
そして「他の呼吸は猿真似をしただけの劣化した呼吸」と位置づけ、日の呼吸が使えない自分に劣等感を持ってしまいます。
おそらく、息子の杏寿郎には自分と同じ思いをしてほしくなくて、読ませなかったのでしょう。
もし杏寿郎が『歴代炎柱の書』を読んだとしても、戦意を失ってしまうことはおそらくなかったはずですが、親としては「自分を失望させた内容を子供にまで見せる必要はない」と思ったのかもしれません。
「日の呼吸」使い手の特徴
日の呼吸は、戦国時代に実在した剣士・継国縁壱によって編み出されました。
『歴代炎柱の書』に記された「日の呼吸の使い手の特徴」は、その継国縁壱本人のことが書かれていたと思われます。
花札のような耳飾り
煉獄槇寿郎は炭治郎の耳飾りを見て、炭治郎を「日の呼吸の使い手」だと思っています。
それは『歴代炎柱の書』に、日の呼吸(始まりの呼吸)の剣士が耳飾りをつけていたことまで書かれていたからでしょう。
ただし、この耳飾りは継国縁壱本人から炭治郎の先祖にあたる炭吉に直接手渡され、以後、竈門家に代々受け継がれてきたもの。
つまり、歴代の炎柱でこの耳飾りを目にしたことがあるのは、戦国時代に継国縁壱と直接交流があった剣士のみだったことになりますね。
そこから400年ものときを経て、代々炎柱の家系だった煉獄家の煉獄槇寿郎が目にしたことで、炭吉の子孫である炭治郎も「日の呼吸」の存在を知ることになったのです。
耳飾りの継承につきましては、こちらの記事で詳しく解説しています。
額の痣(あざ)
煉獄槇寿郎は、後に炭治郎に宛てた手紙の中で、こんなことも明かしています。
「日の呼吸の選ばれた使い手は、君のように生まれつき赤い痣(あざ)が額にあるそうだ」
コミック第10巻
ただし、炭治郎いわく「痣は生まれつきのものではなく、弟を火鉢からかばったときにできた火傷で、最終選別で同じ場所を負傷し、今の形になった」とのこと。
ただ、炭治郎自身がまだかなり幼かった父親の神楽のシーンでは、すでに額に痣があり「本当は生まれつき?」とも考えられます。
しかし、禰豆子が鬼にされた直後、炭治郎の回想でこんなシーンがありました。
このときは額に痣がありませんので、やはり炭治郎本人の言うとおり、痣は生まれつきのものではなかったのです。
ただし、火傷と最終選別での負傷を経てだんだん「日の呼吸の剣士の痣」に近づいていったのは、決して偶然ではなく、炭治郎の中にあった資質も関係していたのだと思われます。
遊郭で発現した別の痣
遊郭での戦いにおいて、炭治郎の額にそれまでとは違った形の痣が発現しています。
これは戦闘能力が飛躍的に上がった状態を示すものでした。
上弦の伍・玉壺との戦闘中に痣が発現した時透無一郎によると、「そのときの心拍数は200を超えていて体は燃えるように熱く、体温は39度を超えていた」。
炭治郎は上弦の陸・妓夫太郎という強敵を相手に限界を超える力を絞り出したため、体が無一郎の言ったような状態になっており、痣が発現したのでした。
心拍数や体温のことはよくわからないけど、体が普通の状態じゃなかったことだけは確かでした。
竈門炭治郎が「日の呼吸」を継承できた理由
竈門家では「日の呼吸」ではなく「ヒノカミ神楽」として、その呼吸と型を代々継承してきました。
しかし、日の呼吸を編み出した継国縁壱は多くの剣士と交流があり、炭治郎の先祖・炭吉以外にも「日の呼吸の型」を見たことのある人物は何人もいたはずです。
それなのになぜ、日の呼吸を使う剣士は炭治郎よりも前には現れなかったのでしょうか。
継国縁壱からの直接の継承者は?
呼吸を継承者した剣士はいなかった
縁壱の兄・巌勝(みちかつ)は、天才剣士である弟の領域には誰も到達できず、その代わり、他の呼吸が派生していったことを説明しています。
つまり「日の呼吸」を継承できた者はいなかったことになりますね。
なお、巌勝自身は縁壱に勝てないことに絶望し、人間であることを捨て、黒死牟という鬼になっています。
日の呼吸の「型」を知っている者はいた
呼吸は使えなくても「型」を知っている剣士は存在していました。
それは、縁壱から直接教わっていた者、そしてさらにその者たちから教わっていた者まで含まれるでしょう。
ただし縁壱の死後、鬼舞辻無惨と黒死牟により、日の呼吸の「型」を知る剣士は皆殺しにされています。
たとえ呼吸は使えなくとも、もしかしたら「型」だけでも継承されていくことで、「いずれ呼吸も使える人間が現れるかもしれない」と恐れていた証拠ですね。
無惨にとっての縁壱は、そこまでし尽くさねばならないほどの存在でした。
また、黒死牟にとっても日の呼吸は縁壱を思い出してしまう憎き技でしたので、根絶やしにしたかった思いは無惨と同じだったのでしょう。
竈門家が「呼吸」と「型」両方を継承できたのはなぜ?
剣士の家系ではなかったから
まず理由として挙げられるのは、竈門家が炭焼きの家系で剣を使うことがなかったために、無惨と黒死牟の標的にならずに済んだことでしょう。
二人が恐れていたのは、縁壱の日の呼吸を継承した者が現れ、自分たちを倒しに来ること。
「日の呼吸の型」を知る者を殺し尽くしたことで、「日の呼吸を扱える剣士」は、もう存在しないはずでした、炭治郎が那田蜘蛛山でヒノカミ神楽を出すまでは。
剣を振るうための「型」ではなく「舞い」として伝わっていたから
竈門家に「日の呼吸の型」が継承されたのは、炭治郎の先祖・炭吉が継国縁壱と実際に交流があったからでした。
縁壱が見せてくれた「日の呼吸の型」のあまりの美しさに、炭吉はその姿を目に焼き付け「後に繋いでいく」と約束。
ただし、炭焼きをしている竈門家は刀を持たなかったため、「神楽」として継承されていったのです。
「炭治郎、この神楽と耳飾りだけは、必ず、途切れさせず継承していってくれ。約束なんだ」
コミック第5巻
それまで縁壱以外の誰も使えなかった「日の呼吸」を、「舞い」の形であったとはいえ、忠実に受け継いできた竈門家。
そこには、鬼を倒すためではなく、ヒノカミ様に捧げる「神楽を舞い続けるための呼吸」として継承していくとの思いがあったのでしょう。
その結果、戦国時代に縁壱と炭吉が交わした約束をずっと守り続けることにもなったのです。
まとめ
炭治郎が鬼狩りの剣士にならなければ、縁壱の日の呼吸が再び世に出ることはなかったでしょう。
いや、そもそも鬼舞辻無惨が竈門家を襲わなければ、炭治郎が刀を持つこともなかったわけです。
無惨が竈門家を襲ったのは、太陽を克服する鬼を作るため。
それまで鬼にしてきた人間の血統とは違う者を選んでいたとはいえ、ほとんど無差別の襲撃でしたが、禰豆子が太陽を克服したことで無惨の目論み通りになったはずでした。
しかし、結果的には禰豆子のいた竈門家を襲ったことが、無惨のいちばん恐れた「日の呼吸」の継承者を目覚めさせることにつながったのは、とても皮肉な結果でした。
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