鬼殺隊の頂点に立つ第97代目当主・産屋敷輝哉。
鬼殺隊の隊士からは「お館様」と呼ばれ、隊士たちを我が子のように想い、鬼との戦いで命を落とした隊士に対しても一人一人の氏名を覚え弔う姿も…。
作中でも、柱たちから慕われ敬意を払われる様子が描かれています。
今回は、お館様・彦屋敷輝哉はなぜ柱に慕われているのかについて考察していきたいと思います。
お館様・彦屋敷輝哉はなぜ柱に慕われているのか
お館様と柱たちの交流の様子
お館様が柱たちに慕われている理由を考える際、まずは柱それぞれのキャラクターとお館様のエピソードを作中より抜粋し、見ていきましょう。
炎柱・煉獄杏寿郎
煉獄杏寿郎 あの子は近いうちに鬼殺隊の運命を変えてくれる一人になってくれる
©平野稜二・吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 外伝
鬼滅の刃外伝に、炎柱・煉獄杏寿郎とお館様の交流の様子が描かれています。
当時、鬼殺隊の甲だった杏寿郎の元に、父・槇寿郎(当時炎柱)の鎹鴉より柱合会議の召集の知らせが入りました。
完全に塞ぎ込んでいた槇寿郎に代わり、杏寿郎が父の様子を伝える為に出席します。
柱でもないのにと風柱・不死川実弥に煽られ、一方的に攻撃を受ける杏寿郎に対し、お館様は静かに任務の指示を出しました。
杏寿郎に、”言葉ではなく実績で皆を認めさせ、自分の実力を示しておいで”と優しく伝えました。
卓越した先見の明を持ち、その行く末を見通す力を持つお館様の言葉通り、杏寿郎は立派な柱となり、多くの人を助けました。
水柱・富岡義勇
どうしても独りで後ろを向いてしまう義勇が 前を向けるよう 根気強く話をしてやってくれないか
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第15巻 第130話
竈門禰豆子が太陽を克服し、柱稽古が始まると、最終選別を自分の実力で突破していない為、柱の資格がないと独り後ろを向く水柱・富岡義勇の様子が描かれています。
お館様は病床で容態も悪い為、義勇と直接話ができない故、自分の思いを伝え、竈門炭治郎に託しました。
お館様は、自分の命と引き換えに姉と親友・錆兎を失い、自信喪失の感情を拭えずにいる義勇を、同じく家族を失い、妹・禰豆子を鬼にされた炭治郎なら導くことができると確信していたのでしょう。
さらに、義勇の親友・錆兎とは不思議な交流を持つ炭治郎なら、錆兎の本意を義勇に真っ直ぐに伝えられることも承知していたのではないでしょうか。
ここでも、お館様の先見の明により、義勇はしっかりと現実を受け止め、正しい道へ進むべく、前を向くことができました。
音柱・宇髄天元
つらいね 天元 君の選んだ道は
自分を形成する幼少期に植え込まれた価値観を否定しながら 戦いの場に身を置き続けるのは苦しいことだ
様々な矛盾や葛藤を抱えながら君は それでも前を向き戦ってくれるんだね 人の命を守るために
ありがとう 君は素晴らしい子だ
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第10巻 第87話
遊郭編で上弦の陸・妓夫太郎と対峙する天元は、妓夫太郎に特別な才能を持って妬ましいと言われ、自分の出生を思い返します。
忍の家に生まれ、9人いた姉弟は厳しい訓練により天元と二つ下の弟のみとなっていました。
実父は、部下は駒、妻は跡継ぎを産むために死んでもいいとかなり非道な人物で、天元はそんな父親を反面教師のように思っていました。
鬼殺隊に志願した天元に対して、お館様はすぐさま天元の境遇を慮り、寄り添い労いました。
代々鬼殺隊当主である産屋敷家に生まれたお館様の境遇もまた天元に通じるものがあり、天元の辛い気持ちは手に取るように理解できたのでしょう。
霞柱・時透無一郎
君は必ず自分を取り戻せる 無一郎
混乱しているだろうが今は とにかく生きることだけ考えなさい
生きてさえいればどうにかなる 失った記憶は必ず戻る 心配はいらない
きっかけを見落とさないことだ ささいな事柄が始まりとなり 君の頭の中の霞を鮮やかに晴らしてくれるよ
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第13巻 第108話
霞柱・時透無一郎は鬼に双子の兄・有一郎を襲われ、目の前で兄が亡くなるという凄惨な状況を受け止めきれず、記憶を失っていました。
有一郎だけでなく、無一郎も命を落とす寸前でしたが、無一郎たちの元を通っていたお館様のお内儀・あまね様に見つけてもらい命拾いをします。
鬼と対峙した際の負傷も酷かったですが、心の傷もかなり深く、無一郎の病床に寄り添うお館様の姿がありました。
あまりの過酷な現実に呆然とする無一郎に、心配を拭うようにお館様は優しく諭しました。
両親を失い、二人で支え合っていた双子の兄・有一郎まで鬼に奪われ、肉親を失った喪失感に苛まれる無一郎の思いは、お館様も常に味わっている感情だったと考えられます。
恋柱・甘露寺蜜璃
素晴らしい 君は神様から特別に愛された人なんだよ蜜璃
自分の強さを誇りなさい 君を悪く言う人は皆 君の才能を恐れ 羨ましがっているだけなんだよ
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第14巻 第124話
筋肉の密度が常人の8倍もあり、そのことで傷ついていた蜜璃は、その力を人の役に立てられないかと模索し、鬼殺隊へ入隊することに…。(※入隊理由は別にありますが、ここでは割愛致します)
恥じていた力を生かす場所が見つかり、さらに、お館様はその強さを誇るよう、蜜璃に諭しました。
お館様に認められたことにより、これまでの無念な思いも晴れ、自信を取り戻し、恋の呼吸を会得し、柱として鬼殺隊で活躍しました。
長年、コンプレックスに感じていた事を”神様に特別に愛された故の才能”と諭したお館様を蜜璃はまさに神のように感じたことでしょう。
風柱・不死川実弥
実弥は柱として人の命を守っておくれ それだけが私の願いだよ
匡近が死んで間も無いのに呼んでしまってすまなかったね 兄弟のように仲良くしていたから尚更つらかったろう
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第19巻 第168話
実弥は柱となって初めての柱合会議で、”いいご身分だなァ”などと言って、お館様に噛みつくシーンがあります。
隊員を捨て駒としか思ってないなどと嘯く実弥に、お館様は”ごめんね”と謝罪します。
お館様は、自分は偉くもなく、代わりは既におり、自分も捨て駒であることを伝えると、直前の戦いで実弥と共闘して殉職した匡近のことを名前を告げて話始めました。
お館様が、数多いる鬼殺隊士の名前や生い立ちを一人一人覚えていることを知ると実弥のお館様を見る目は敬意へと変わりました。
お館様は、暴言を吐いて噛みつく実弥の心の奥底にある親友の死や鬼になってしまった母親を討伐した辛い過去にすぐさま向き合い、その気持ちに寄り添いました。
岩柱・悲鳴嶼行冥
君が人を守る為に戦ったのだと私は知っているよ
君は人殺しではない
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第16巻 第139話
身寄りのない子供たちと寺で暮らしていた行冥は、鬼から子供たちを守る為に戦ったが、行冥が子供たちを殺したと誤解され、殺人罪となったところをお館様に救われました。
目も見えず、誤解を受け、誰にも信じてもらえない絶望感は想像を絶するものだったことでしょう。
行冥も、お館様は”その時人が欲してやまない言葉をかけて下さる方”と表現しています。
正に救世主のように行冥の前に現れ、一生の御恩と感じるほどの恩義を行冥は感じたのではないでしょうか。
※蟲柱・胡蝶しのぶと蛇柱・伊黒小芭内とお館様との個人的な交流の様子は原作コミックではまだ描かれていないのでわかりませんが、今後外伝等で紹介されたら嬉しいですね。
お館様・彦屋敷輝哉の不思議な人物像
特殊な声と先見の明
特殊な声に加えて この勘というものが産屋敷一族は凄まじかった
”先見の明”とも言う
未来を見通す力 これにより彼らは財を成し幾度もの危機を回避してきた
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第16巻 第139話
お館様が囮となり、無惨討伐を目指した作戦で岩柱・悲鳴嶼行冥は、特殊な声と先見の明に長けていたとお館様を回顧しました。
先見の明については、前出の柱との交流の中で紹介しましたので、こちらでは割愛致します。
しかし、その他にも、禰豆子が鬼殺隊として戦えることや、無惨は頸を斬っても死なないことを想定するなど、当主としての才覚を発揮され、隊士を導きました。
何だろう この感じ ふわふわする…
声?この人の声のせいで頭がふわふわするのか?
不思議な高揚感だ……!!
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第6巻 第47巻
声については、竈門炭治郎も、柱合裁判の最中に”ふわふわする”と表現していました。
鬼殺隊当主 産屋敷輝哉 彼の声音 動作の律動は話す相手を心地よくさせる
現代の言葉ではそれを1/fゆらぎと言う
カリスマ性があり 大衆を動かす力を持つ者はこの能力を備えている場合が多い
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第6巻 第47話
また、作中でもお館様の声の詳細について、紹介するシーンがあります。
お館様の声は、1/fゆらぎと表現されており、1/fゆらぎとは、例えるなら、雨や波、風などの自然な音や、木の木目や焚火の明かりなどの視覚的なものもあるようです。
お館様の声は、そのような規則的なゆらぎと不規則なゆらぎの中間にある、1/fゆらぎであり、聞くだけでリラックスできる効果を持っていました。
アニメ「鬼滅の刃」立志編では、声優・森川智之さんによって、優しく落ち着きのある品の良い声で表現されていましたね。
隊士を子供たちと呼び、我が子のように思う心
隊士を我が子のように想われている。
命を落とした一隊士の氏名まで記憶されていることからも、愛の深さがうかがえる
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐
お館様は、柱を含め、鬼殺隊の隊士たちのことを”こどもたち”と呼び、自分のこどものように大切に想っていました。
実弥がお館様に食ってかかったシーンでも、お館様は、殉職した実弥の兄弟子・粂野匡近の名を呼び、実弥はお館様の情の深さにとても驚きます。
当時の花柱・胡蝶カナエは、お館様は亡くなった隊士の名前と生い立ちを全て記憶していることを伝えました。
戦士した隊士のお墓参りや、負傷した隊士のお見舞いなども毎日欠かさず行っていたことも…。
お館様は、自身は剣術に才は無いが、幼くして鬼殺隊を統括しなければならない過酷な環境に生まれました。
自分の代わりに鬼と対峙してくれている鬼殺隊士の存在は有難くもあり、申し訳なくもあり、殉職する隊士に対しては格別の思いで寄り添っていたのではないでしょうか。
まとめ
お館様・彦屋敷輝哉はなぜ柱に慕われているのかについて考察してきましたがいかがでしたでしょうか。
まとめると
- お館様が特殊な声や先見の明により、強いカリスマ性を持っていた
- そして、隊士たちを含め、柱一人一人の状況や心に真正面から寄り添い、自身のこどものように深い愛情を持って接していた
お館様の人生を思うと、本当に過酷で壮絶な運命を背負っており、泣いている間もないままに、鬼殺隊当主として、その責務を全うし続ける姿がありました。
実弥が柱として初参加の柱合会議でお館様に食って掛かるシーンにおいて、”私は偉くも何ともないんだよ”と静かに話すお館様がとても印象的です。
そして、鬼殺隊隊士の書き遺す遺書の内容が自身の夢と一緒だと伝える時の悲しげで優しい表情、それは一心に鬼のいない世界を願い続けることの過酷さを物語っているようでとても切ないです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
引き続き鬼滅の刃をお楽しみください。
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