全ての鬼の始祖で、鬼を増やすことができる唯一の存在、それが『鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)』です。
さまざまなタイプの人間を鬼にしていますが、後に十二鬼月、特に『上弦の鬼』となるほどの逸材をスカウトしたとき、鬼舞辻はどんな口説き文句を使っていたのでしょうか。
「悪魔の囁き」ともいえるその手口を見ていきましょう。
鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)のスカウト基準
鬼舞辻が自分の血(細胞)を与えることでその個体は鬼となるのですが、その血に順応できなかった者は、主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう)の家族もそうだったように、すぐに死んでしまいます。
禰豆子のように鬼になって生き残る確率は高くありません。
では、鬼舞辻はどんな基準で自分の血を与える人間を選んでいるのでしょうか。
太陽を克服する細胞を持っているかどうか
その細胞を持つ者にまだ出会っておらず、また、これは実際に鬼にしてみないとわからないので、とにかく体質や血統がこれまで鬼にしてきた人たちと異なる者を狙っています。
ただ、この基準に関しては「スカウト」というより「無理やり血を与えている」と言うべきでしょう。
強い鬼になれるかどうか
この基準に対しては、今まで上弦になれた鬼たちと類似した体質の人などを狙っています。
黒死牟(こくしぼう)や猗窩座(あかざ)のように人間のときから強かった者、または童磨や魘夢(えんむ)のように非道な性格の者の中から選ぶことが多いようです。
鬼舞辻無惨のスカウト場面
上弦の壱・黒死牟(こくしぼう)
黒死牟の人間のときの名前は「継国巌勝(つぎくにみちかつ)」といいます。
剣士としての戦闘能力が上がった証の「痣(あざ)」が発現するも、天才的な剣の腕を持つ双子の弟・継国縁壱(つぎくによりいち)にどうしても追いつけず、『日の呼吸』も使えず、口惜しい思いをしていました。
そんなとき、痣が発現していた剣士たちがバタバタと死に始めます。
巌勝「痣は寿命の前借りに過ぎない、全盛期はすぐ終わる。私には未来がない。鍛錬を重ねる時間もない」
コミック第20巻
巌勝の望みはただひとつ、「縁壱より強くなりたい」、それだけでした。
しかし、それには長い時が必要だと思い、無惨の誘いに乗ってしまった結果、400年もの間生き続けることになります。
黒死牟は無限城で最期を迎えるとき、「私はただ、縁壱、お前になりたかったのだ」「私は何のために生まれてきたのだ。教えてくれ、縁壱」と言っています。どんなに強くなったところで、結局は「縁壱には勝てなかった」という虚しい思いが延々と続いていただけだったのですね。
上弦の弐・童磨(どうま)
童磨にはなんと言って誘ったのか、セリフが描かれていませんでした。
童磨は武術に優れていたわけでもなく、生き長らえたいと望んでいたわけでもありません。
しかし「人が苦しむのをなんとも思わないタイプ」で、そういうところがかえって恐ろしくもあり、無惨は「こういうタイプも鬼に向いている」と思ったのかもしれません。
後に『上弦の弐』にまで上り詰めていますので、無惨の見立ては正しかったことになりますね。
上弦の参・猗窩座(あかざ)
猗窩座の人間のときの名前は「狛治(はくじ)」といいます。
狛治は最愛の婚約者と恩師を毒殺されていて、無惨に遭遇したこの日は、毒殺した犯人、そして犯人と同じ道場の者(共犯者として)合わせて67人を素手で殺した直後でした。
その悲惨な状況に人々は「鬼が出た」と大騒ぎし、無惨は「鬼を配置した覚えはない場所なのに」と思ってやってきたのです。
狛治は巌勝(=黒死牟)のように鬼になることを受け入れたわけではなく、ただ自暴自棄になっていて本当に「どうでもいい」、「このまま死んでも構わない」と思っていましたが、結果的に無惨の血に順応し、『猗窩座』という鬼になっています。
猗窩座本人は気づいていませんが、婚約者との思い出を技に込め、師匠の教えどおりに素手のみで戦う姿は、どこか鬼になりきれていないところがあったようにも見えます。
それでも無惨は猗窩座のそういったストイックさを気に入っており、猗窩座もまた無惨に対しては非常に忠実でした。
上弦の肆(し)・半天狗
自分を責めている人間、言い訳をしている自分、その中に無惨が混じっています。
「明日打ち首とは可哀想に。私が助けてやろう」
このタイミングで誘われたら、断る理由はないかも知れません。
下弦の伍・累(るい)
「強い体がほしい」「もっと長く生きたい」と思っている人間に甘い言葉をささやいて鬼にする、最も卑怯なスカウト方法です。
望んで鬼になったとはいえ、累はまだ子供だったので、状況がよく理解できていなかったでしょう。
自分をとても愛してくれていた両親を、自分の勘違いで殺してしまって呆然とする累に、またも悪魔のささやき。
ある意味、この言葉はこのときの累を救ったのですが、元はと言えば無惨のせいなのに「励ましてくださった」とは、すでに洗脳状態に陥っていますね、可哀想に。
珠世(たまよ)
珠世も累と同じ状況で、「もっと生きていたい」と望んで鬼になりました。
しかし、「鬼になったら人間の血肉を喰らわねば生きていけない」とは聞かされておらず、自ら家族を食べて殺してしまう羽目になったことに対し、ずっと無惨を恨んできました。
珠世は黒死牟や縁壱と同じ時代にすでにこの世に存在していたため、黒死牟と同じく400年以上生きていたことになります。
最初に「無惨は鬼を増やすことができる唯一の存在」と書きましたが、愈史郎だけが例外で、珠世によって鬼になっています。
ただし、鬼となった後のことも含め、すべて本人の意志を尊重してのことです。
そしてこの二人の存在が、後に無惨を倒すための重要なピースとなるのでした。
上弦の鬼によるスカウト「成功」場面
上弦の鬼は、自分が鬼にしたいと思った人間を見つけるとまず無惨に見極めてもらい、それが認められれば、その上弦の鬼を通して無惨の血を与えられることになります。
無惨は自身の血(細胞)を遠隔操作できるので、こういったことも可能なのです。
上弦の弐・童磨が誘った「妓夫太郎(ぎゅうたろう)」(後の『上弦の陸』)
スカウト当時、童磨は『上弦の陸』でした。
焼かれて黒焦げになった妹の梅(かろうじて生きていた)を抱えながら歩いていた妓夫太郎に対し、童磨が鬼に誘っている場面です。
童磨は妓夫太郎と梅の二人を鬼にするつもりで誘っているので「お前ら」と言っています。
後にこの兄妹は『上弦の陸・妓夫太郎&堕姫(だき)』となり、100年以上に渡り上弦の鬼として君臨することになります。
上弦の壱・黒死牟が誘った「獪岳(かいがく)」(後の『上弦の陸』)
獪岳は「雷の呼吸」の使い手で、我妻善逸(あがづまぜんいつ)の兄弟子です。
師匠から後継者とされるぐらいの実力の持ち主でしたが、運悪く黒死牟と遭遇してしまい、命乞いをしました。
黒死牟は、獪岳が呼吸を使える剣士で、もっと強くなりたいと思っている境遇を、かつての自分と重ね合わせていたのかも知れません。
与えられる血の量が多いほど順応も難しいのですが、それを克服した獪岳は鬼となり、妓夫太郎&堕姫兄妹の死後、『上弦の陸』に格上げされています。
その数か月後、獪岳は俺が無限城で倒した。誰の手も借りずに、俺がひとりでやらなきゃいけないことだったんだ。獪岳が鬼になったことで、弟子から鬼を出した責任を取って、じいちゃんが割腹自殺してしまったことがどうしても許せなかった。
上弦の鬼によるスカウト「失敗」場面
上弦の参・猗窩座が誘った「炎柱・煉獄杏寿郎」
『鬼滅の刃』でいちばん有名なスカウトシーンと、秒殺で断られたシーンです。
猗窩座は武道家としては優れているのですが、人の心に付け入るのは下手で、そのあたりが無惨や黒死牟、童磨とは違います。
執拗に煉獄さんを誘い続けているので、よほど煉獄さんのことが気に入ったのでしょうね。
上弦の鬼は、強い鬼となれそうな人材をスカウトすることで、無惨からの評価を上げる意図も持っていると思われますが、少なくともこのときの猗窩座にとってはそんなことはどうでもよく、「(鬼となって)俺と永遠に戦い続けよう」、この言葉にウソはなかったと思います。
猗窩座の思いがどうであれ、これが煉獄さんの、そして柱たちの共通した思いなのですよね。
上弦の参・猗窩座が誘った「水柱・冨岡義勇」
懲りずにまた「柱」を誘っていて、そしてやはり誘い方が下手です。
義勇からは何の返事ももらえませんでしたが、そんなもの聞くまでもないですね、ここまで嫌われているのですから。(※これは鬼に誘われるよりも前の場面です)
義勇さんは猗窩座に名前を教えなかったのに「お前も鬼になれ義勇」と名前がバレてしまっているのは、義勇さんが猗窩座に吹っ飛ばされたときに俺が「義勇さん!」とつい呼んでしまったからです。すみません。。
猗窩座は俺を鬼に誘った直後、炭治郎に頸を斬られているが、実は頭を再生されそうになり、正直焦った。しかし、最期は猗窩座自身が再生を拒んだ形で崩れ落ちている。
尚、猗窩座は「柱」のスカウトには全敗しているものの、他の人間のスカウトには何度か成功していました。
ただし、いずれも強い鬼になる前に死んでしまっています。
上弦の陸・妓夫太郎(ぎゅうたろう)が誘った「竈門炭治郎」
妓夫太郎は妹の堕姫(だき・同じく上弦の陸)を守りながら戦っていますが、同じく妹のいる炭治郎が妹を守れず、自分たちにやられていることを責めて馬鹿にしています。
しかし、「兄として妹を守りたい」という気持ちもわかる妓夫太郎は、「鬼になれば守ってやれるぞ」と誘っているのです。
尚、炭治郎はこの誘いを完全にスルーしています。
上弦の壱・黒死牟が誘った「霞柱・時透無一郎」
これも無一郎からの返事はありませんでしたが、聞くまでもないですね。
黒死牟は、自分の末裔である無一郎の剣技の高さ、メンタルの強さを目の当たりにし、「鬼にしよう」と考えます。
自分が無一郎に大怪我を負わせたところを止血までしてあげています。
それでも、他の剣士たちと共に自分に向かってくるのを見て、最後は無一郎の体を両断したのでした。
鬼舞辻無惨が「スカウト」ではなく無理やり鬼にした人間
竈門禰豆子
禰豆子が人間に戻る直前に思い出したシーンです。
自分が太陽を克服するためだけにこんな風にたくさんの人間を殺してきたとは本当に許せませんが、無惨にとってはその甲斐あって、ついに太陽を克服する鬼(=禰豆子)を作ることができ、その後、状況が大きく変わり始めたのでした。
禰豆子は鬼になった直後からすでに無惨の支配から逃れていて、更に人の血肉を喰らうことなく過ごしていたことからも、他の鬼たちとは明らかに違う何かが起こっていたのは間違いありません。
浅草の男性
炭治郎がまだ鬼殺隊士になったばかりの頃、鬼舞辻無惨は浅草で炭治郎と遭遇しています。
自分の正体を知られた無惨は、騒ぎを起こして周囲の目を自分からそらせるため、ただそれだけのために、たまたま近くを歩いていたこの男性に自分の血を少量だけ与え、鬼にしています。
無惨はこの男性の血鬼術によって一時的に体を固定され、その隙に珠世が複数の薬を無惨に与えることに成功しました。
無惨はかつてその場しのぎで鬼にした男性から、自分の首を絞められることになったのです。
尚、この男性は珠世の薬によって自我を取り戻しており、おそらく最終決戦の前に人間に戻る薬も与えられていたのではないかと思われます。
竈門炭治郎
禰豆子を吸収して太陽を克服しようと目論んでいた無惨でしたが、そうする前に結集した鬼殺隊に追い込まれます。
そしてついにその身が消えてなくなろうとしていたとき、最後の悪あがきともいえる手段に出たのです。
なぜ最後の思いを託したのが炭治郎だったのか、それは、以下の2つの理由から「最強の存在となって生き続けてくれる」と信じていたからです。
- 太陽を克服した禰豆子と血を分けた兄だから
- かつて無惨を死の淵まで追い詰めた『日の呼吸』を使える唯一の者だから
無惨の思い通り、炭治郎は無惨の細胞に順応して鬼となり、更にすぐに太陽を克服しています。
しかし、栗花落(つゆり)カナヲに「人間に戻す薬」(胡蝶しのぶ作)を打ち込まれ、人間に戻ったのでした。
まとめ
鬼舞辻無惨は、黒死牟や猗窩座のような武道家ではないため「自分を恥じる」、「潔く散る」といった言葉とは無縁で、人間に戻ろうとしていた炭治郎を引き留めようと、最後の最後まで悪あがきを続けています。
しかし、結局は炭治郎を引き留めることができず、肉体の消滅のみならず、その精神さえも受け継ぐ者を残せないまま、ひとり虚しく散っていったのでした。
ただ、このとき無惨が炭治郎を鬼にしていなければ、炭治郎はそのまま死んでいたはずでした。
自分の最後の悪あがきが炭治郎の命を救い、人間として生き返らせることに繋がったのは、鬼舞辻無惨にとっては皮肉な結果だったかも知れません。
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