鬼舞辻無惨と珠世の関係を端的に言ってしまうと「鬼にした者とされた者」。
ただ、無惨はかつて、珠世に対して他の鬼たちとは違う特別な扱いをしていました。
一方の珠世は、他の鬼たちが無惨に忠実であるのと違い、無惨を恨んでいました。
今回はこの二人がお互いにどういう存在であったのかを解説いたします。
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鬼舞辻無惨が珠世から恨まれている理由
鬼になった経緯
鬼舞辻無惨は鬼の始祖であり、珠世も無惨によって鬼にされたひとり。
とは言っても、禰豆子のように無理やり鬼にされたわけではなく、自分から望んで鬼になりました。
その理由は、我が子の成長を見届けたかったから。
珠世が鬼になったのは19歳のとき、子供はまだかなり幼かったでしょう。
にもかかわらず、病で余命わずかな状態に陥ってしまっていたのです。
もっと生きて成長を見届けたいのは、母親として当然の思いですよね。
知らなかった「鬼の習性」
しかし、無惨のおかげで生き延びた珠世は、無惨を恨むことになります。
それは、鬼になったら人間の血肉を欲するようになることを聞かされていなかったからでした。
なんと、珠世は自分が鬼になったことにより、成長を見届けたかった子供と夫を食べて殺してしまっていたのです。
鬼になった者はその時点で理性が失われてしまうので、愛する人たちを襲うことに何のためらいもありません。
鬼に変貌したばかりの禰豆子も、兄の炭治郎にいきなり襲いかかりました。
その理由は、直後に出会った水柱・冨岡義勇のセリフのとおりです。
「『飢餓状態』になっている鬼は、親でも兄弟でも殺して喰べる。栄養価が高いからだ。(中略)鬼に変わるときもかなり体力を消耗するはずだから、間違いなく今は重度の飢餓状態」
コミック第1巻
つまり、鬼になった直後はすぐ近くにいる人間、主に家族を食べてしまうのが鬼の習性なのです。
禰豆子の場合、炭治郎が涙で訴える姿を見て理性を取り戻し、炭治郎を殺さずにすみました。
しかし、珠世は家族に襲いかかった結果、そのまま食べて殺してしまったのです。
その後に理性を取り戻したときの絶望は察するに余りあるもの。
子供や夫を殺してしまうぐらいなら、あのまま自分が病で死ねば良かったとさえ思ったでしょう。
だからこそ、その習性を内緒にしたまま自分を鬼にした無惨を恨んでいるのです。
愛する家族を殺してしまった珠世は、その後に自暴自棄となり、たくさんの人を殺しています。
鬼舞辻無惨と珠世はなぜ一緒にいたのか?
戦国時代、鬼舞辻無惨と珠世が一緒に歩いているところに継国縁壱が遭遇しています。
大正時代の二人からは考えられない状況ですが、なぜ戦国時代は一緒にいたのでしょうか。
無惨が珠世といた理由
太陽克服の薬を作らせるため
鬼舞辻無惨は生まれつき体が弱く、ずっと医者にかかっていましたが、病状が悪化していくことに腹を立て、その医者を殺害してしまいます。
ところが後になって、症状は改善していたことが判明。
強靱な体は手に入れたものの、日の光に当たれない体質になっており、それをどうしても克服したかった無惨。
しかし、症状を治すための薬「青い彼岸花」の調合がわかるのは自分が殺した医者のみ。
無惨は部下の鬼たちに、その薬に必要な青色の彼岸花を探させています。
ただ、仮に青色の彼岸花が見つかったとして、それを薬として調合するには、やはり専門知識が必要。
珠世は医者でしたので、人の体のことや薬についての知識がありました。
珠世の知性と美貌は、そばに置いておきたくなるほどの魅力があったのだと思いますが、それ以上に、無惨は、自分の力だけでは絶対にできない「太陽の光の克服」のため、珠世を利用しようとしていたのだと思われます。
また、自分のそばに置いておくことで、「貴重な医者の鬼」である珠世を、鬼狩りに殺されないようにしておく狙いもあったのかもしれません。
珠世はいつから医者だった?
浅草で炭治郎に、自分は鬼だが医者でもあると言った珠世。
鬼になった時点ですでに医者だったのか、それとも鬼として長い年月を生きていく中で医術を学んだのか、そこは明らかにされていません。
しかし、おそらく鬼になる前から医術の知識を持っていて、無惨はそれを利用するために、珠世をだまして鬼にしたのではないかと思われます。
女性の医者はいつから存在していたのか?
医師の開業が資格取得者にのみ認められるようになったのは、1875年(明治8年)です。
珠世が炭治郎に出会ったのは、それよりも後の大正時代。
日に当たれず身分も証明できない鬼が、人間に混じって国家試験を受けていたとは考えにくいので、珠世は「国から認められた資格を持った医者ではなかった」と思われます。
それでも、法制化される前から開業していた女性の医者は実在していました。
さらに、珠世が人間だった時代に、医師としての知識や技術を身に付けることが可能だったと考えられる記述が、833年に撰集された律令の解説書『令義解』(りょうのぎげ)にありました。
この中に「女医」という文字が記されており、その時代から女性も医術を行っていたことが伺えるのです。
鬼舞辻無惨は平安時代に生まれていて、珠世は無惨よりは後の生まれ。
平安時代が始まったのは794年ですので、『令義解』が撰集された833年は平安時代のかなり初期。
その段階ですでに「女医」が存在していたのなら、珠世も医術を身に付けられる時代に生きていたことになりますね。
ただし、珠世が鬼になったときの年齢は19歳とかなり若く、人間時代に得た経験は浅かったものと思われます。
その後、鬼となってから何百年も経験を積み、知識を深め、技術も高めてきたのでしょう。
珠世が無惨といた理由
珠世が無惨と一緒にいたのは、無惨からそばにいるよう命じられていたため、と考えるのが自然です。
鬼が無惨に逆らうことは許されませんので、従うしかなかったのでしょう。
しかしひとつだけ、珠世にも無惨のそばにいるメリットがありました。
無惨の弱点を探るため
珠世は「子供の成長を見届けたい」と、自分から望んで鬼になっています。
ところが鬼になった珠世は、愛する夫と子供を食べて殺してしまい、自分をだました無惨をずっと恨み続けていました。
そのため、そばに置かれていることを利用し、弱点を探して殺す方法や機会を伺っていたようです。
しかし、無惨は自分が鬼にした者の心を読み、物理的な距離が近いほど的確に把握できる能力の持ち主ですので、珠世の本心を知っていたはず。
それは、無限城で400年ぶりに顔を合わせたときに「しつこい女だ、逆恨みも甚だしい」と言っていたことからもわかりますね。
それでも、自分を殺そうと狙っている珠世をそばに置いていたのは、医学の知識が欲しかったのと「この女に自分を殺せるわけがない」との自信がたっぷりあったからなのでしょう。
縁壱のおかげで知ることができた無惨の行動パターン
無惨にとって誤算だったのは、珠世を連れて歩いているときに継国縁壱に遭遇してしまったことです。
珠世は、無惨が縁壱と戦って窮地に追い込まれたとき、体を分裂させて逃亡したところを見ていました。
そのため、最終決戦でも同じように逃亡を図るかも知れないことを予測し、打ち込む薬の中に「分裂阻害」を仕込んでいます。
縁壱からの逃亡は分裂することで成功した無惨でしたが、それを見ていた珠世によって、400年後の戦いでは阻止されることになるとは、思いもよらなかったでしょう。
継国縁壱と珠世の関係につきましては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
鬼舞辻無惨が鬼殺隊から身を隠していた理由
鬼舞辻無惨は、圧倒的な強さを持ちながら、鬼殺隊、特に柱からは徹底して身を隠しています。
「隠したいものがあると、無惨は騒ぎを起こして巧妙に私たちの目をそらすから。何とももどかしいね」
テレビアニメ第23話
身を隠すようになったのは、継国縁壱が原因でした。
昔と今、無惨の変化
継国縁壱に遭遇する前
戦国時代、無惨は珠世を連れて外を歩いていたときに、鬼殺の剣士だった継国縁壱と遭遇しています。
縁壱に会うまでは、自分を脅かす人間は存在しないと思っていて、明らかに油断していました。
しかし、縁壱に斬られたところは再生せず、このままではやられると悟った無惨は、体を分裂させて逃亡。
その後、縁壱が生きている間は姿を現わしませんでした。
継国縁壱の死後
「そんなまさか・・・柱でさえ誰も接触したことがないというのに!」
コミック第6巻
お館様から、炭治郎が鬼舞辻無惨と遭遇していたことを聞かされた柱たちは、全員驚きを隠せませんでした。
その後も、無限城での戦いが始まる前に無惨と遭遇した柱はいません。
おそらく、無惨に遭遇したことがない柱は、この時代に限ったものではなかったでしょう。
それは決して偶然ではなく、明らかに無惨が柱たちを警戒していたからだったことが、遊郭で堕姫に言ったセリフから伺えます。
「鬼殺隊でも手練れの者・・・柱などはすぐに此方(こちら)が鬼だと看破する。しかし此方からは柱程実力の有る者以外、人間など視ただけでは殆ど違いがわからない」
コミック第9巻
これは言い換えれば「柱ほど実力の有る者ならば、こちらからでもわかる」、つまり、自分から柱を避けることができたわけです。
ここまで徹底して身を隠しているのは、かつて自分を死の淵にまで追い詰めた継国縁壱の「日の呼吸」を使える剣士に遭遇することを恐れていたからに他なりません。
竈門炭治郎と遭遇したのはなぜ?
無惨は、柱ほど実力がある者以外の人間は、ほとんど違いがわからないと言っていました。
浅草に鬼殺隊士の炭治郎が来ていたことに気づかず、うっかり遭遇してしまったのは、炭治郎がまだ下っ端の鬼狩りだったからでしょう。
いきなり自分の肩を掴み、刀を抜こうとした炭治郎を見て、その少年が鬼狩りであることはすぐわかったようです。
しかし、他の人間がたくさんいる中で殺すわけにはいきません。
そこで無惨は、そばを通りかかった男性の首に傷をつけて鬼にし、混乱に乗じて逃げようとしました。
そのとき、鬼にされた男性を取り押さえようと、頭にかぶっていたマフラーを取った炭治郎を見て、無惨が「あること」に気づきます。
初めて見せた尻尾
無惨が目にしたのは、炭治郎の耳飾り。
400年前に初めて自分に死の恐怖を味わわせた最強の剣士、継国縁壱が付けていたのと同じものでした。
ただ、いくら縁壱と同じ耳飾りをしているとはいっても、目の前の少年は、自分が肩を掴まれるまで全く気づかなかったほどに弱い、下っ端の鬼狩り。
それでも、この後すぐに追手を放ち、炭治郎の始末を命じています。
「耳に花札のような飾りをつけた鬼狩りの頸を持って来い」
コミック第2巻
「殺して来い」ではなく「頸を持って来い」、このセリフには、耳飾りをつけた鬼狩りが確実に死んだことを、自分の目で確かめたいとの意図があったのでしょう。
無惨にとっては、たとえ下っ端であっても、縁壱の日の呼吸を継承者している可能性のある人間は、生かしてはおけない存在だったのです。
400年前、縁壱に殺されそうになって逃亡し、そのまま何十年も姿を隠していたのは、縁壱には絶対勝てないとわかっていたから。
縁壱の死後、再び姿を現わした無惨は、縁壱の兄でもある黒死牟とともに「日の呼吸の型」を知る者を殺し尽くしました。
無惨にとって、継国縁壱がどれだけ脅威だったかが伺えます。
戦国時代に無惨が珠世を連れて無防備に出歩いていたのは、まだ自分に死の恐怖を味わわせるほどの剣士に出遭ったことがなく、また、そんな人間は存在しないと高をくくっていたからだったのでしょう。
しかし、縁壱と遭遇したことで状況は一変し、日の呼吸を使う剣士を恐れるようになりました。
そして炭治郎の耳飾りを見て突発的に追手を放ち、それがお館様の言う「初めて見せた尻尾」となったのです。
なお、無惨と黒死牟により「日の呼吸の型」を知る者は全滅させられたはずでしたが、なぜ竈門家には受け継がれていたのか、その理由をこちらの記事で解説していますので、併せてご覧ください。
まとめ
鬼舞辻無惨にとっての珠世は、太陽を克服する薬を作らせるためのコマだったと思われます。
また、知性と美貌を兼ね備えた女性をそばに置いておくことは、無惨の美意識を満足させるものでもあったでしょう。
一方、珠世にとっての無惨はとにかく憎く、いつか絶対にこの世から抹殺したい存在でした。
無惨は自分が縁壱から逃げたあと、珠世が自分の支配から逃れたことを知っていました。
それでも、炭治郎に対してのように、追手を放って執拗に狙っていたわけではなかったようです。
「あの女がなにをしようと、私にはかなうわけがない」と思っていたのでしょうか。
実際、最終決戦において珠世から「人間に戻す薬が完成した」と聞かされても、信じていませんでしたからね。
しかし、浅草で炭治郎と接触し、縁壱の影を恐れるあまり追手を放ってしまったことからボロが出始めました。
そこを鬼殺隊と珠世に突かれ、最後は倒されるという結末を迎えたのです。
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