『鬼滅の刃』は、主人公・竈門炭治郎が、鬼にされてしまった妹の禰豆子を人間に戻すために戦う物語です。
その炭治郎に戦い方を教えた師匠が鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)でした。
鬼殺隊の元・水柱で、剣士たちを教える『育手(そだて)』としても優秀な人物ですが、意外にも、弟子たちの中で鬼殺隊に入ったのは、現・水柱の冨岡義勇と炭治郎の2人だけ。
そこにはどんな理由があったのでしょうか。
そしてどのように炭治郎を導いてくれたのでしょうか。
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竈門炭治郎の師匠・鱗滝左近次が炭治郎と出会うまで
生まれは江戸時代
この鬼(手鬼・ておに)が江戸時代に鱗滝さんに捕らえられたのであれば、鱗滝さんが生まれたのも江戸時代、ということになりますね。
ちなみに『鬼滅の刃』は大正時代の物語で、そのひとつ前の元号「明治」は45年までありました。
そして47年前がまだ江戸時代であったなら、『鬼滅の刃』は大正時代の初期であるということも、この手鬼のセリフからわかります。
なお、時代考察につきましては、こちらの記事も是非ご覧ください。
手鬼のセリフだけではなく、当時の建物からの考察もあり、興味深い内容です。
鬼殺隊の引退後は『育手(そだて)』となる
鬼殺隊では『水柱』だった鱗滝さん。
引退の背景や年齢は明かされていませんが、その後は身寄りのない子供たちの面倒を見ていました。
そしてその子達に剣術を教え、少なくとも14人の子供たちが、炭治郎よりも前に最終選別に参加しています。
しかし、その中で鬼殺隊士になったのは、後の水柱・冨岡義勇だけでした。つまり、後の13人は最終選別で生き残ることができなかった(=死んでしまった)のです。
そしてその13人を殺していたのが、かつて鱗滝さんが捕らえた『手鬼』でした。
弟子たちを殺していた『手鬼(ておに)』
最終選別の地である藤襲山(ふじかさねやま)にいる鬼たちは、本来、そこまで強くはないはずでした。
鬼たちは共喰いをし、また最終選別で剣士たちに斬られて死んでいくため、常に「新しい鬼=まだあまり人間を食べていない鬼」が補充されていくからです。
最終選別で対戦する鬼たちは、鬼殺隊に生け捕りにされて藤襲山に入れられています。つまり、「生きたままでも連れて来られるような(鬼殺隊士にとっては)弱い鬼」なわけですね。
しかし、鱗滝さんの捕えた手鬼はそこで何十年も生き続けており、たくさんの人間を食べ、体も巨大化し、他の鬼とは比べものにならないほどの強さを持っていました。
鱗滝さんの厳しい修行に耐えた子たちでさえ、殺されてしまうほどだったのです。
いちばん強かった少年・錆兎(さびと)
鱗滝さんの弟子の中でいちばん強かったのは、手鬼いわく「宍(しし)色の髪をした口に傷のあるガキ」でした。
この少年の名前は『錆兎(さびと)』といい、冨岡義勇と一緒に鱗滝さんの下で修行をしていた子で、二人は13歳のときに共に最終選別に挑んでいます。
冨岡義勇は最初に対戦した鬼に怪我を負わされたところを錆兎に助けられ、その後は気を失ってしまい、結局一体の鬼も倒すことなく7日間を生き延び、選別を終えていました。(※手鬼には遭遇していない)
しかし、義勇や他の子を助けてくれた錆兎は、誰よりもたくさんの鬼を倒していたにも関わらず、最後に手鬼に殺されてしまったのです。
本当はもう『育手(そだて)』をやめようと思っていた?
最終選別に挑んだ鱗滝さんの弟子たちは、義勇以外は生きて戻って来ませんでした。
そのことにとても心を痛め、「もう子供たちが死ぬのを見たくない」と思っていたのです。
身寄りのない子供を引き取って育てていた鱗滝さんは、『剣士の育手』である前に、ひとりの『子供好きなおじさん』だったのだと思います。
優秀な剣士を育て、鬼の滅殺に貢献することよりも、まず「子供たちが元気に健やかに生きて育っていくこと」を望んでいたのでしょうね。
それなのに、今また炭治郎の育手を引き受けたのは何故だったのでしょうか?
竈門炭治郎との出会い
引き合わせたのは水柱・冨岡義勇
鱗滝さんの(炭治郎よりも前の)弟子の中で、唯一最終選別を生き残って鬼殺隊士となった冨岡義勇。
炭治郎&禰豆子の兄妹と出会ったのは、水柱になって間もない頃でした。
少年が連れていたのは鬼になった妹
「鬼を見つけたら頸を刎(は)ねる、それには一体の例外も認められない」、これは義勇だけではなく、鬼殺隊にとって当たり前のことでした。
炭治郎がどんなに「殺さないでくれ」とお願いしたところで、無意味なはずでした。
他とは違った兄妹
しかし、炭治郎は明らかな実力差を知りながらも、妹を守るために捨て身で義勇に挑んでいきます。
また、禰豆子は鬼でありながら人間の兄を守ろうとし、義勇を威嚇してきました。
この姿を見た義勇は「この二人は何か違うのかも知れない」と感じ、炭治郎を鬼殺隊へ導く決心をして、自身の師匠である鱗滝さんに二人を託しています。
強い意思を持つ炭治郎を見捨てられなかった
冨岡義勇から二人を託したいとの手紙をもらった鱗滝さんは、自分のところへ来ようとしている二人を迎えに行っています。
「鬼に家族を殺された少年」というところは義勇や錆兎と同じでしたが、「鬼になった妹を連れている」というところは他の誰とも違っていて、鱗滝さんも気になったのかも知れません。
炭治郎の第一印象
優しすぎる
炭治郎と禰豆子を見つけた鱗滝さんは、すぐには声をかけずにしばらく様子を見ていたようです。
このときの炭治郎は、まだ『鬼』についてほとんど何も知らず、どうやって殺したらいいのか、どうすれば苦しませずに殺すことができるのか、いろいろ迷っていました。
鬼に対しても同情心を持つ炭治郎を、鱗滝さんは「この子には無理だ。思いやりが強すぎる」と感じています。
判断が遅い
「妹が人を食ったとき、お前はどうする?」
いきなりそんなことを聞かれて、炭治郎は即答することができませんでした。
すると鱗滝さんは、
それでも、その場ですぐに「不合格」とはせず、鬼殺の剣士としてふさわしいかを試すことにしています。
諦めない強い精神力で合格
鱗滝さんは、暗くなった山に炭治郎を連れて行き、夜明けまでに山を下りてくるよう命じました。
炭治郎の鼻が利くことは義勇からの手紙で知っていましたが、実はその山にはたくさんの仕掛けがあり、鼻の良さだけでたやすく下りられる山ではなかったのです。
しかし、炭治郎はボロボロになりながらも山を下って、夜明けまでに鱗滝さんの家にたどりつきました。
それを見た鱗滝さんは、「妹を人間に戻す」という炭治郎の決意が揺るぎないものであることを確信し、炭治郎に本格的な修行をさせることにしたのです。
炭治郎に課した修行
基礎体力向上と反射訓練
炭治郎を鍛える決心をした鱗滝さんは、毎日厳しい訓練をさせていました。
それに耐えられないようであれば、そもそも鬼殺隊になど入れないということでしょう。
そして炭治郎は、何度も命の危機を感じながらも、反射神経や嗅覚が更に研ぎ澄まされていくのを実感しています。
技術指導
剣を持った状態での訓練
基礎体力がついたところでいよいよ技術訓練です。
炭治郎は炭焼きをしている家で育ったため、剣術は全くの素人でした。
真剣を持たせたにも関わらず、素手に丸腰の鱗滝さんに全く歯が立ちません。
『水の呼吸』の指導
「水とひとつになれ。早く行け」と言って滝壺に落とすという過酷な修行です。
このやり方が『水の呼吸』とどう繋がるのかは凡人には理解し難いですが、耐え抜いた炭治郎の精神力はすさまじいと思いました。
そして修行を始めて1年が経った頃、鱗滝さんは「もう教えることはない」と炭治郎に告げます。
「あとはお前次第だ。お前が俺の教えたことを昇華できるかどうか」
コミック第1巻
最終選別への条件は「巨大な岩を斬ること」
この条件は鬼殺隊が決めたものではなく、鱗滝さんが独自に決めたものです。
そして炭治郎がどれだけ頑張ったところで、これは成し遂げられないだろうと思っていたようでした。
しかし1年後、炭治郎は見事に岩を斬ったのです。
炭治郎ひとりでは成し遂げられなかった
鱗滝さんの予想は、半分は当たっていました。
もし炭治郎がずっとひとりで修行していたなら、おそらく岩は斬れなかったでしょう。
ところが、鱗滝さんにとって想定外のことが炭治郎の身に起きていました。
すでに亡くなっていた自分の弟子たちが、炭治郎を指導していたのです。
錆兎による実戦指導
錆兎はすでに手鬼に殺されてこの世にはいないはずの少年でしたが、ひとりでもがき苦しむ炭治郎を見て、出て来ずにはいられなかったのでしょうか。
強い言葉で挑発し、心が折れそうだった炭治郎を鼓舞しています。
真菰(まこも)による短所矯正と理論伝授
もうひとり、炭治郎に指導をしてくれたのが真菰(まこも)です。
この子も最終選別で手鬼に殺されていました。
手鬼は真菰のことも覚えていて「小さくて力は無かったが、すばしっこかった」と言っています。
真菰は炭治郎に、ただがむしゃらに体を動かすのではなく、全集中の呼吸の原理や、なぜそれが戦いに有効なのかなどを、言葉で教えてくれました。
俺は最終選別で手鬼に遭遇するまで、この二人がすでに死んでいたことを知りませんでした。後から思うと、本当に不思議な体験でした。
「最終選別、必ず生きて帰れ」
炭治郎は鱗滝さんから「もう教えることはない」と言われてから半年の間はひとりで修行し、更にその後の半年間は錆兎と真菰に指導され、その結果、遂に岩を斬ったのです。
「お前を最終選別に行かせるつもりはなかった。もう子供が死ぬのを見たくなかった。お前にあの岩は斬れないと思っていたのに・・・よく頑張った。炭治郎、お前は凄い子だ」
コミック第1巻
そして炭治郎が最終選別へ行くことを許可したのでした。
最終選別と鱗滝さんの覚悟
『厄除(やくじょ)の面』が招いていた悲劇
鱗滝さんは、最終選別へ向かう炭治郎に渡したものがありました。
『厄除の面』、これは弟子たちを災いから守るために、鱗滝さん自身が掘ったお面でした。
ところが、この狐の面が目印になり、弟子たちは鱗滝さんを恨んでいる手鬼に殺されてしまっていたのです。
しかし鱗滝さんはこのことを知らず、炭治郎にもこの狐の面を渡したのでした。
手鬼を倒したのも弟子だった
炭治郎が付けている狐のお面を見て、手鬼は「鱗滝の弟子だな、こいつも殺してやる」と思っていました。
手鬼は錆兎でさえやられてしまった強い相手で、炭治郎も一度は気を失ってしまいます。
しかし、鼻の利く炭治郎は手鬼の攻撃を予測して相手の間合いに入り込み、最後は鱗滝さんに習った『水の呼吸』で頸を斬って倒したのでした。
「よく生きて戻った!!!」
鱗滝さんは、炭治郎が最終選別に行くことを許可したものの「本当に行かせて良かったのだろうか」と思い悩んでいたのかも知れませんね。
そして最終選別から生きて戻った炭治郎の姿を見て、涙を流して喜んだのです。
お館様への手紙
炭治郎が鬼殺隊に入隊し、禰豆子を連れて任務に赴くことになると、鱗滝さんはお館様へ手紙を出しています。
それは「炭治郎が鬼の妹を連れていることを認めてほしい」というものでした。
禰豆子が人を襲った場合は、3人が腹を切る覚悟
かつて鱗滝さんは、「もし妹が人を襲ったら、妹を殺して自分も腹を切るのだ」と炭治郎に言い聞かせています。
そしてお館様への手紙には、もし禰豆子が人に襲いかかった場合は、炭治郎だけでなく鱗滝さん自身、そして冨岡義勇までもが腹を切ってお詫びをすると書かれていました。
炭治郎は自分たちのために命をかけてくれている二人に感謝すると共に、より一層の覚悟を持って任務にあたることを誓ったのです。
禰豆子へも注いでいた愛情
鱗滝さんは、弟子たちに対してだけでなく、禰豆子にも愛情を持って接してくれていました。
人を襲わない鬼だと信じた
禰豆子について、冨岡義勇からの手紙にはこう書かれていました。
生き残った妹は鬼に変貌していますが、人間を襲わないと判断致しました。
鱗滝さんは、炭治郎が留守の間はずっと禰豆子の面倒を見ていました(2年間ほとんど眠り続けたままでしたが)。
そして、お館様への手紙には、禰豆子のことをこう記しています。
「禰豆子は強靱な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を喰わず、そのまま二年以上の歳月が経過致しました。俄(にわか)には信じがたい状況ですが、紛れもない事実です」
コミック第6巻
禰豆子にかけた暗示
「人間は皆、お前の家族だ。人間を守れ。鬼は敵だ。人を傷つける鬼を許すな」
コミック第2巻
鱗滝さんは暗示のことを「気休めにしかならないかも知れないが」と言っていましたが、その暗示のおかげで禰豆子は理性を保ち、なんとか鬼殺隊にも認められています。
炭治郎が背負っている箱は鱗滝さんお手製
この軽くて丈夫な箱は、鱗滝さんが自ら作ったもので、炭治郎と禰豆子への想いが詰まっていました。
鬼殺隊士となった炭治郎は、禰豆子が太陽を克服するまでの数ヶ月間、ずっとこの箱を背負って戦っています。
禰豆子を託すなら鱗滝さんしかいない
禰豆子は『刀鍛冶の里編』で太陽を克服し、珠世(人間の味方の鬼)の作った「人間に戻す薬」を使うことになります。
そしてそれを禰豆子に飲ませたのが鱗滝さんでした。
おそらく珠世は、薬の投与後しばしの苦痛を伴うことになるのを知っていて、誰かを禰豆子のそばに置いてほしいと、お館様にお願いしたのではないでしょうか。
そこで白羽の矢が立ったのが、かつて2年間を禰豆子と過ごした鱗滝さんだったのです。
何より禰豆子が慕っている
禰豆子は、炭治郎が鬼殺隊士としての最初の任務に赴いた日以降、一度も鱗滝さんには会っていませんでした(炭治郎もですが)。
しかし、鱗滝さんのことはちゃんと覚えていて、久し振りの再会をこんなに喜んでいたのです。
禰豆子のこの姿を見ると、お館様の人選が的確だったことがわかりますね。
人間に戻った後も懐いている
鬼だった自分をずっと信じてくれていた鱗滝さんを、好きでないはずがありませんね。
鱗滝さんは、鬼になった禰豆子を「可哀想」と思って面倒を見ていたわけではなく、普通の一人の子供として、愛情を注いでいてくれたのでしょう。
子供は敏感です、自分を本気で心配し、愛してくれる人は、本能でわかるのです。
鱗滝さんの前ではほとんど眠り続けていた禰豆子も、本能で鱗滝さんの愛情を感じていたのだと思います。
まとめ
鱗滝さんにとって、炭治郎と禰豆子は特に思い入れの深い子たちになりました。
鬼でありながら人の血肉を喰らわない禰豆子、そしてその禰豆子を絶対に人間に戻すという強い意志を持った炭治郎。
きっと鱗滝さんも、義勇と同じように「この二人は他とは違う」と感じていたはずです。
実際、この二人の存在が鬼の始祖・鬼舞辻無惨に尻尾を出させ、結果的に鬼たちとの戦いを大きく動かしていくことになるのです。
最終選別だけを見ると「弟子は二人しか生き残れなかった」ということになりますが、「その二人は最終決戦でも活躍し、最後まで生き残ってくれた」と考えれば、師匠としては幸せなことだったのではないでしょうか。
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