「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」で、衝撃の登場を果たした『上弦の参・猗窩座(あかざ)』。
猗窩座については、原作でその過去を知っているかいないかで見方が180度近く変わってしまうほど、無限列車編での残虐さと哀しすぎる過去とのギャップは大きいものです。
今回はその猗窩座の過去を、恋人だった恋雪(こゆき)の気持ちを中心に解説していきたいと思います。
なお、正確には恋雪が愛したのは「猗窩座という鬼」ではなく、「狛治(はくじ)という人間」ですので、過去のところはできるだけ「狛治」という名前を使っています。
猗窩座の過去。恋雪(こゆき)が狛治(はくじ)に惹かれた理由
病弱だった自分の父親も恋雪も、世話をしてくれる狛治に対して謝ってばかりいて、そのことを狛治は「いちばん苦しいのは本人のはずなのに、なぜ謝るんだろう」と感じていました。
狛治は、こんなふうに病気で苦しんでいる人を自然に思いやれる人物だったということですね。
狛治としては、このことを特に「思いやり」とは思っていなかったでしょうが、近い距離で接していた恋雪は、狛治の言動からその思いやりをひしひしと感じていたのだと思います。
恋雪と狛治の馴れ初め
恋雪の父・慶蔵(けいぞう)が狛治を家に連れてきた
狛治が15歳の時、恋雪の父・慶蔵は大人7人を素手で伸(の)していた狛治を見初め、自分の道場に誘いました。
しかし当時の狛治はただただ凶暴で、他人の言葉を素直に聞くような状況になく、慶蔵にも殴りかかります。
ところが、素流(そりゅう・素手で相手と戦う武術)の師範である慶蔵は狛治よりはるかに強く、逆に狛治の方が伸されてしまい、渋々といった形で慶蔵の家に連れて行かれたのでした。
慶蔵の目的は?
「病身の娘の看病をしてくれる人を探していた」ということになるのでしょうが、果たしてそれだけの理由で、若い15歳の少年、それも江戸の元罪人だった狛治を選ぶでしょうか。
きっと他にも理由はあったのでしょうね。
恋雪に付きっきりで看病してくれた狛治
恋雪との初対面
「くだらない」と言っているのは狛治ではなく『猗窩座』です。
恋雪に対して言っているのではなく、「人間時代のことは今(鬼)の自分にとってのくだらない(関係ない)過去」という意味です。
ただし、「くだらない」と思っている途中で恋雪のことを思い出し、そこで一旦「くだらないと思っていた状態」が途切れることになります。
恋雪の第一声は狛治を心配する言葉
こんなボコボコの顔の子が来たら、恋雪でなくても「大丈夫?」と聞いてしまいますね。
そしておそらく、恋雪はこのボコボコの顔が慶蔵の仕業だとわかっていて、それもあっての「大丈夫?」だったのかも知れません。
また、このときの狛治の表情を見ますと(ボコボコでわかりづらいですが)、これまで自分を心配する言葉をかけてくれる人にあまり出会ったことがなかったような感じに見えます。
狛治は病人の看病に慣れていた
狛治は病弱な父親の看病をずっとしてきたので、どんなふうに世話をすれば良いのかわかっていて、特に苦でもなかったようです。
しかし恋雪は自分のせいで、鍛錬する時間も取れず遊びにも行けない狛治に申し訳ないと思っていました。
それでも狛治は「遊びたいとは思わないし、空いた時間にそこらで鍛錬しているので気になさらず」と素っ気なく答えています。
これは決して恋雪に気を遣っていたわけではなく、狛治の正直な気持ちでした。
狛治の父親は、狛治が11歳のときに自殺をしてしまっています。自分の薬を買うために盗みを繰り返していた息子に「これ以上罪を重ねさせたくない」との考えからでした。しかしこれがかえって狛治を苦しめることになり、手が付けられないほど荒れてしまったのです。
恋雪が感激した狛治からの言葉
狛治の以前のセリフにあった「お気になさらず」がどこまで本音なのか、分かりかねていたのでしょうか。
たまには「今日は遊びに行ってきます」と言ってくれた方が、むしろ恋雪の気持ちも少しは楽になったのかも知れません。
しかし狛治は、「行くならあなたを背負って」という返事をしています。
これも狛治にとって深い意味はなく、淡々と答えていたのだと思いますが、この言葉が恋雪の心にとても響いたのでした。
花火大会の夜に誓った約束
狛治が恋雪の家に来て3年、恋雪は16歳、狛治は18歳になっていました。
この頃の恋雪は伏せることもなくなり、ほとんど普通の生活が送れるまでに快復しています。
好意を伝えたのは恋雪の方
狛治にとっては、正に「青天の霹靂」「寝耳に水」状態。
しかし恋雪にとっては、もうかなり前から心に決めていたことだったのでしょう。
恋雪には、狛治がそんなふうに考えていることはお見通しだったのかも知れませんね。
そこも含めて、自分の方から慶蔵に伝えたのだと思います。
慶蔵の目的考察①
道場の跡継ぎのことも考えて狛治に声をかけたのだとも考えられますが、恋雪が狛治を気に入ってくれるかどうかは「賭け」でしたよね。
「私は狛治さんがいいんです」プロポーズも恋雪から
一緒に花火を見に行った夜、狛治は恋雪に「本当に俺でいいんですか?」と聞いています。
それに対する恋雪のセリフは「子供の頃、花火を見に行く話をしたの、覚えていますか?」でした。
やはり、そのときに思ったことを正直に淡々と口にしていただけの狛治は、覚えていなかったようです。
恋雪にとって、花火の話がいちばんの決め手になったのは事実のようですが、狛治の(本人は覚えていなくても)他の言葉にも、たくさん心救われていたようですね。
恋雪も、自分の将来を想像できない時期があった
体の弱かった恋雪は、以前は狛治と同じように自分の未来がうまく想像できませんでした。
両親までもが自分のことを諦めていたことを感じてしまっていたのです。
そんなときに、狛治はさらっと「来年、再来年」と未来のことを口にしてくれた、そんな些細なことが、恋雪にとっては一生忘れられないぐらいの言葉として刺さったのでした。
慶蔵の目的考察②
狛治に声をかけたのは、恋雪が気に入るか云々よりも、もしかしたら恋雪に万一のことがあったときに、道場を継いでもらうためだったのかも知れないですね。
「誰よりも強くなって守る」と心に決めた狛治
狛治はここで初めて、自分の決意をはっきりと言葉で伝えています。
口数の少ない狛治がはっきりと口にしたその決意の程は、相当なものだったでしょう。
その矢先の悲劇が狛治を「鬼」にした
恋雪との結婚が決まった狛治は、父親の墓前にその報告をしに行きました。
しかし家に戻ってくると、悲劇が待っていたのです。
「根深い逆恨み」が慶蔵と恋雪を毒殺
「あいつら」とは、慶蔵の素流道場の隣にある剣道道場の者たちのことです。
なぜ彼らが慶蔵の家の井戸に毒を入れたのか、その背景には、隣の道場とその跡取り息子による「根深い逆恨み」がありました。
最初は「素流道場」と「慶蔵」への逆恨みだった
侍でもない慶蔵が立派な土地と道場を持っていたのには、こういった経緯があったのでした。
しかし、その場所は元々隣の剣術道場の者が手に入れたいと思っていたところだったため、そこから素流道場への嫌がらせが始まったのです。
素流道場に狛治以外の門下生がいないのも、その嫌がらせによるものでした。
隣の道場の跡取り息子は恋雪に好意を持っていた
彼は病弱な恋雪を無理やり外に連れ出すような思いやりのない男で、出先で恋雪が喘息の発作を起こしたときには、怖くなって置き去りにしてしまったような臆病者でした。
狛治が恋雪を見つけて助けてくれたから良かったものの、もし狛治が見つけていなければそのまま死んでしまっていたところでした。
隣の道場との試合では狛治の一人勝ち
恋雪の件で慶蔵が怒り、隣の道場と素流道場とで試合をしたのですが、狛治が一人で隣の道場の9人を倒し(慶蔵の出番なし)、今後、素流道場と恋雪に関わらないことを約束させようとしました。
それに逆ギレした跡取り息子が木刀ではなく『真剣』を持って狛治に斬りかかったところ、狛治は振り下ろされる刃を側面から拳で打ちたたき、真っ二つに折っています。
それは狛治のいちばん得意な『鈴割り』という技でした。
猗窩座が無限城で冨岡義勇の剣を折ったこの場面、正にこれが『鈴割り』という技なのでしょう。
義勇がここまで驚いた目をしているのも珍しいですね。
逆恨みの火種はずっと燃え続けていた
狛治の『鈴割り』の美しさに感動した当時の隣の道場主は息子の非礼を詫び、素流道場への嫌がらせもやめています。
しかし、道場主が亡くなり、更に恋雪と狛治の結婚話を聞いた跡取り息子は、周りの焚き付けもあり、(直接戦っても勝てないので)井戸に毒を入れたのです。
狛治は隣の道場を襲撃して復讐
慶蔵と恋雪が毒殺された後、狛治は隣の道場の者67名を素手で殺害しています(「跡継ぎ息子」も含まれています)。
この事件に関する役所での記録が、30年程後に「作り話だった」ということにして破棄されたほどの悲惨さでした。
その事件の夜、狛治は鬼舞辻無惨と遭遇し、『猗窩座』という鬼になったのです。
恋雪は『猗窩座』をずっと見守っていた?
鬼になってからは、狛治時代のことはすべて忘れてしまっていた猗窩座でしたが、無限城での戦いの中、少しずつ慶蔵や恋雪のことを思い出します。
頸を斬られても戦おうとする猗窩座を止めた恋雪
恋雪は、猗窩座という鬼になった狛治のことをずっと見守っていたのでしょうか。
日輪刀で頸を斬っただけでは死ななかった猗窩座ですが、恋雪は猗窩座が頸を再生しようとしているところで、それを止めようと出てきました。
いや、恋雪が出てきたというより、猗窩座が人間の頃に近づいていた=死が近いことを悟っていたと言った方がいいかも知れません。
自分が強さにこだわった理由を思い出し、再生を拒んだ猗窩座
狛治は恋雪と慶蔵を守るために「強くなる」と誓いましたが、その守りたかった人たちを失った直後に鬼になっています。
そのためか、「強くなりたい」という記憶だけは持ち続けていました。
しかし過去を思い出し、「守りたかった大事な人たちがいなくなった世界で生きていたかったわけでもないのに、無駄な殺戮を繰り返した」鬼になってからの自分を「惨めで滑稽でつまらない」と言っているのです。
最後に狛治を迎えに来た恋雪
「猗窩座」ではなく「狛治」として戻って来てくれたことが、恋雪には何より嬉しかったことでしょう。
狛治が犯した罪も、猗窩座が犯した罪も、決して許されるものではありませんが、恋雪はそれも全部受け止めて迎え入れてくれているように見えますね。
公式ファンブック『鬼殺隊見聞録・弐』で、隠(かくし)の後藤さんが地獄へ行った鬼たちに「各呼吸の斬られ心地」をインタビューしている画でも、猗窩座ではなくちゃんと狛治に戻っていました。ちなみに答えていた「斬られ心地」は、最後のヒノカミ神楽ではなく、煉獄さんの炎の呼吸についてでした。
左端に恋雪の姿がありますので、地獄ではあっても狛治と共にいることがわかりますね。
そして狛治は今度こそ約束を守り、ずっと恋雪を守り続けてくれているのだと思います。
忘れていても心の中に居た恋雪
猗窩座は鬼になったあと、恋雪のことは忘れてしまっていました。
しかし、猗窩座の放つ技の名前は「一生あなたを守ります」と恋雪に誓った日に二人で見た花火が由来です。
また、猗窩座の『術式展開』の雪の結晶の基になったのは、恋雪の髪飾りです。
そして、雪の結晶のモチーフは恋雪の着物にも入っていました。
恋雪の足元が描かれているのは、原作の第153話(恋雪が猗窩座に「狛治さん、もうやめて」と腕を引っ張る回)の扉絵です。
植物柄に混じって、小さな雪の結晶が3つあるのがわかりますでしょうか?
愛する人が身につけていた雪の結晶のモチーフ、そして名前にも入っている「雪」、猗窩座の心の中にはずっと恋雪がいたことを、『術式展開』が証明していますね。
まとめ
猗窩座の『術式展開』は劇場版で初めてアニメーション化され、とてもとても美しいものになっています。
劇場版での実際の場面は、もちろんもっと壮大なものになっています。
後に語られる狛治と恋雪の美しくも哀しい(哀しくも美しい、と言うべきでしょうか)物語の伏線になっているとしか思えないほどでした。
恋雪自身がアニメーションに登場するのはまだまだ当分先になってしまうと思いますが、恋雪を知っている人は、この『術式展開』に(猗窩座の代わりに)恋雪への思いを馳せているかも知れませんね。
そして無限列車編では出てきませんでしたが、『破壊殺・脚式』などから繰り出される「花火の名前がついた技」も、きっと美しく表現されることでしょう。
その「花火の名前がついた技」の基になった花火につきましては、こちらの記事にて紹介しています。
そして、猗窩座の最後につきましては、こちらの記事にまとめましたので、是非ご覧ください。
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