六つの眼を持ち、十二鬼月の最上位、上弦の壱に何百年も立ち続けていた黒死牟。
元々は月の呼吸を極めた鬼殺隊士であり、”始まりの呼吸”の剣士・継国縁壱(つぎくによりいち)の兄で、人間だった時は継国巌勝(みちかつ)と名乗っていました。
黒死牟は、縁壱に対する複雑な思いを嫉妬と憎悪により歪めてしまいましたが、剣技を極め、侍の道を望む心は鬼となっても変わらず持ち続けていました。
今回は、そんな黒死牟が生涯追い求めていた”日の呼吸”を、なぜ習得することができなかったのかについて、考察していきたいと思います。
黒死牟はなぜ日の呼吸を習得できなかったのか
黒死牟の最初で最大の間違い
巌勝:痣者がばたばたと死に始めた
痣は寿命の前借りに過ぎず 全盛期はすぐに終わる
私には未来が無い 鍛錬を重ねる時間も残されていない
鬼舞辻無惨:ならば鬼になれば良いではないか
鬼となれば無限の刻を生きられる お前は技を極めたい
私は呼吸とやらを使える剣士を鬼にしてみたい
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第20巻 第178話
思わぬめぐり逢いで再会した縁壱の、見事な強さと素晴らしい人となりに、忘れていた嫉妬心と尽きない焦りを感じた巌勝は、鬼殺隊を志願します。
その後、剣技に対しては真面目に取り組む巌勝にも、縁壱そっくりの痣が発現。
痣を発現した仲間が次々と寿命を迎えるのを目の当たりにした巌勝の心の隙に、無惨の汚い策略が忍び寄りました。
先が短いと悟った巌勝は、剣術を磨き、縁壱と同じ”日の呼吸”を習得し、いつか縁壱に追いつきたいという己の欲を抑えきれず、鬼の道を選んでしまいました。
巌勝のこの選択こそが、巌勝を自分の願いから最も遠ざける選択だったことをこの時の巌勝は気付くこともなく、鬼となってしまいました。
縁壱と巌勝の違い
後継者に対する考え
日の呼吸の使い手ではない者たちが 刃を赤く染める
そんな未来を想像して何が面白い
己が負けることなど考えただけで腸が煮え返る
俺はもう二度と敗北しない そうだ 例え頸を斬られようとも
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第20巻 第176話
縁壱の日の呼吸、そして巌勝の派生の月の呼吸、それぞれの後継がいないという話を回想するシーンで相反する二人の考え方の違いがわかります。
自分たちは特別で自分たちに匹敵する実力者がいないことで極めた剣術が途絶えることを案ずる巌勝。
それに対し、自分たちはそんな大層なものではなく、長く続く人の歴史のほんの一欠片で、自分たちを凌ぐ者たちがこの先更なる高みへと登りつめていくこと望む縁壱。
自分の強さを慢心する巌勝に対し、縁壱は視野の広い考えを伝え、後継の者への期待で浮き立つ気持ちを露わにしました。
剣術の伝承
縁壱は誰にでも剣技や呼吸を教え、それぞれの者が得意であることに合わせ呼吸法を変え、指導しました。
そして、日の呼吸の派生で水・炎・岩・風・雷の呼吸ができ、そのそれぞれにさらに派生する呼吸ができていきます。
それに対し、自分自身の鍛錬のみに従事した巌勝は、日の呼吸の派生である月の呼吸を使えるようにはなったものの、他に伝授することはありませんでした。
月の呼吸は、壱~拾陸ノ型まであり、その数の多さから、巌勝が剣術には真摯に取り組んでいた姿勢は感じられます。
月の呼吸を自分一人でのみ鍛錬する巌勝に対し、縁壱は日の呼吸を誰にでも教え、それぞれの得意なことに合わせて指導し、派生の呼吸へと広がっていきました。
妻子との別れ
縁壱は、継国家から出た後に山の中で出会った家族を失った少女・うたと暮らし始め、夫婦となります。
うたの出産の為に産婆を呼びに行き、とある事情で縁壱の帰りが遅くなりと、うたはお腹の子供諸共殺されていました。
家族と静かに暮らしたいという縁壱の夢は、非情な悪意により打ち砕かれてしまいました。
縁壱が家をでた後、妻を娶り、子供にも恵まれた巌勝でしたが、野営していたことろを鬼に襲われ、縁壱と再会します。
縁壱に救われ、その圧倒的な強さと非の打ちどころのない人格に忘れていた感情を再燃させた巌勝は妻子を自ら捨て、鬼狩りの道を選びました。
家族と静かに穏やかな幸せを育みたかった縁壱、家族と共に長閑で平穏な幸せを手にしていたにも関わらず、剣術の為に自ら手放した巌勝、とても対照的な二人です。
日の呼吸を習得した竈門炭治郎
縁壱さん 後に繋ぎます 貴方に守られた命で…俺たちが
貴方は価値のない人なんかじゃない!!
何も為せなかったなんて思わないで下さい そんなこと誰にも言わせない
俺が この耳飾りも日の呼吸も後世に伝える 約束します!!
©吾峠呼世晴/集英社 鬼滅の刃 第22巻 第192話
無限城での戦いの最中、負傷し意識を失った竈門炭治郎が先祖の記憶として、縁壱と炭治郎の先祖の炭吉との交流を回想するシーン。
縁壱が炭吉夫妻の前で、日の呼吸を披露します。
日の呼吸は息を忘れるほど綺麗で美しく、剣を振るう縁壱がまるで精霊のように見えるほどでした。
別れ際、数奇な縁壱の身の上話を聞いた炭吉は、その物悲しい縁壱の後ろ姿に向かい、誓います。
日の呼吸の十二個の型は何百年経つのに驚くほど正確に伝わっており、さらに炭治郎は十二個の型を繰り返すことで十三個目の型になることを突き止めました。
炭吉と縁壱の約束をきっかけに竈門家に代々受け継がれてきた日の呼吸が炭治郎に受け継がれ、鬼舞辻を倒すための十三の型にまで繋がりました。
黒死牟が日の呼吸を習得できなかった理由
結論から言うと、人に伝授することもなく、ただひたすら自分の為だけにと一人で習得しようとしたからです。
縁壱が唯一臨んだ平穏な家族を持っていたにも関わらず、自ら手放し、さらにはその末裔である霞柱・時透無一郎の命まで奪いました。
自分の力を誇示することだけに注力した結果、月の呼吸は誰にも伝授されず、後世にも何も残すことができませんでした。
日の呼吸が炭治郎へと繋がれたのは、炭吉に伝授したものが、正確に受け継がれ、さらに炎柱が代々受け継いだ”歴代炎柱の書”に記されたヒントにより、炭治郎へと繋がれました。
黒死牟は、自分だけの望みや欲を最優先とし、その他全てを切り捨ててきたことで自分の一番欲した”日の呼吸”を手に入れる機会すら失ったのでした。
まとめ
今回は、黒死牟が生涯追い求めていた”日の呼吸”を、なぜ習得することができなかったのかについて、考察してきましたがいかがでしたでしょうか。
まとめると
黒死牟が”日の呼吸”を習得することができなかった理由は、
- 人に伝授することもなく、ただひたすら自分の為だけにと一人で習得しようとしたから
- 自分だけの望みや欲を最優先とし、その他全てを切り捨ててきたことで習得の機会を失ったから
自分が自分がと、自分だけのことや自分の身近な人のことだけを優先し、視野の狭い考えをすると、自分の手に入れたいものですら失うということは現代社会でもよくあることですね。
黒死牟は元々は忌み子として父親から虐げられた縁壱を気にかけ、守ろうとする正義感の強い人物でした。
しかし、自分が守るべきと思っていた縁壱が持つ能力に嫉妬と憎悪を持ってから、自分を見失ってしまいました。
嫉妬心と憎悪、人間の醜い心ですが、誰もが持つ感情でもあります。
その二つの感情とどう付き合うかが、その人の人間性までも変えてしまうという教訓のようでもありますね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
引き続き鬼滅の刃をお楽しみください。
関連記事