黒死牟の技名はなぜ美しいのか?月の呼吸に込められた意味を読み解く

黒死牟

『鬼滅の刃』に登場する黒死牟は、上弦の壱として圧倒的な強さを誇る鬼です。その強さを支えているのが、彼が生み出した「月の呼吸」です。

月の呼吸の特徴といえば、無数の三日月状の斬撃。そして、技名の美しさ。

「闇月」「常夜孤月」「月虹」「片割れ月」など、まるで和歌や古典文学のような美しい言葉が並んでいます。

なぜ剣技の名前なのに、これほど詩的なのでしょうか。

今回は月の呼吸の技名に使われている言葉の意味を調べながら、技の描写とのつながりや、黒死牟という人物との関係について考察してみたいと思います。

月の呼吸について

  • 日の呼吸から派生した呼吸法
  • 使用時に三日月状の斬撃が無数に発生する
  • 範囲攻撃が非常に多い
  • 黒死牟が鬼になったことで、人間時代よりもさらに凶悪な威力へ進化した
  • 作中でも屈指の殲滅力を持つ呼吸
型技名特徴
壱ノ型闇月・宵の宮(やみづき・よいのみや)高速の居合い斬り。無数の三日月状の斬撃が飛び交う。
弐ノ型珠華ノ弄月(しゅかのろうげつ)前方に三つ斬撃を放ち、複数の敵を同時に攻撃する。
参ノ型厭忌月・銷り(えんきづき・つがり)回転しながら斬撃を放ち、周囲を薙ぎ払う。
伍ノ型月魄災渦(げっぱくさいか)刀を振らずに、巨大な渦を描くような連続斬撃を繰り出す。
陸ノ型常夜孤月・無間(とこよこげつ・むけん)広範囲を埋め尽くすほどの大量の三日月刃を発生させる。
漆ノ型厄鏡・月映え(やっきょう・つきばえ)斜めに一振り。五つの斬撃で相手を追い詰める。
捌ノ型月龍輪尾(げつりゅうりんび)龍がうねるような軌跡で巨大な斬撃を放つ。
玖ノ型降り月・連面(くだりづき・れんめん)上空から連続して斬撃を降らせる高速攻撃。
拾ノ型穿面斬・蘿月(せんめんざん・らげつ)敵を貫くような鋭い斬撃を繰り出す。複数の斬撃が絡み合う。
拾肆ノ型兇変・天満繊月(きょうへん・てんまんせんげつ)広範囲を覆うほど大量の三日月刃を放つ大技。軌道の予測ができない。
拾陸ノ型月虹・片割れ月(げっこう・かたわれづき)三日月のような斬撃を上から地面に突き刺す。

黒死牟の技名の多くは吾峠先生の創作語で、公式に語源解説があるわけではありません。なので「確定的な意味」ではなく、漢字そのものの意味や古語の用法から読み解いていきたいと思います。

壱ノ型「闇月・宵の宮」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック19巻

壱ノ型「闇月・宵の宮」は、黒死牟が時透無一郎たちとの戦いで使用した技です。時透は反応できず左手を失いました。

まず気になったのが「闇月」という言葉です。

古語では、闇月は新月を意味する場合があります。つまり月が見えない夜のことです。

本来、月は夜を照らす存在です。しかし闇月は、その光すら見えない状態を表しています。

さらに「宵」は、昼から夜へ移り変わる時間帯を指します。「宵の宮」は祭りの前夜にも使われる言葉で、本番を迎える直前という意味を持っています。

月の呼吸の最初の技が「闇月・宵の宮」であることを考えると、始まりの技でありながら、どこか不穏な予感を感じさせます。

弐ノ型「珠華ノ弄月」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック19巻

弐ノ型「珠華ノ弄月」は、黒死牟が岩柱・悲鳴嶼行冥との戦いの中で使用した技です。

広範囲へ斬撃を放ちながらも、その名前には不思議な優雅さがあります。

まず「珠」は宝石や真珠。

「華」は花を意味します。

そして「弄月」は中国の詩などで使われる言葉で、

「月を愛でる」 「月を眺めて楽しむ」

という意味があります。

つまりこの技名は、

「宝石や花のように美しい月を眺める」

という非常に風流な表現でしょうか。

人を斬るための技なのに、名前だけを見ると貴族が月見を楽しんでいるような光景が浮かびます。

鬼になってもなお武士だった頃の教養や美意識が残っているようで、とても印象的な技名です。

参ノ型「厭忌月・銷り」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック19巻

厭忌とは「嫌って避けること」を意味し、強い嫌悪感から遠ざけようとする態度を指す語です。

銷は金属を溶かす、消える、尽きる、散るなどの意味を持つ漢字です。物理的なつながりや消滅を表す際に使われます。

伍ノ型「月魄災渦」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック19巻

月魄(げっぱく)という言葉から見ていきましょう。

月魄とは、初めて昇る月、または満月が欠け始めるときの明るさが弱い部分や、月の精を意味します。

さらに細かくみていくと、魄という言葉は、古くは月の光や月の陰の部分のことです。

また、古代中国では、

  • 魂=陽
  • 魄=陰

と考えられていました。

月魄とは、月に宿る陰の気を意味します。つまり単なる「月」ではなく、暗く冷たい、淡い光をまとった霊的な月というイメージを持ちます。

「災渦」とは、天災や事故などによって起こる思いがけない災難や不幸のことです。

月の持つ陰の力が災いになる、という意味にとれます。

魄という言葉が、物質ではなく霊的な意味を含むこと、また災渦が予測不能な事柄を表すことから、「刀を振らずに使用できる」という技の特徴に関連があるように思います。

陸ノ型「常夜孤月・無間」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック20巻

最も黒死牟らしいと感じたのが、陸ノ型「常夜孤月・無間」です。

この技は無数の斬撃で周囲を埋め尽くす大技として描かれました。この技で、不死川実弥は内臓が飛び出そうになるほどの重傷を負わされました。

使われている言葉を見てみると、

「常夜」は終わらない夜。

「孤月」は孤独な月。

「無間」は仏教でいう無間地獄を連想させる言葉です。

どの言葉にも救いがありません。

特に「孤月」という表現が印象的です。

夜空に浮かぶ月はもともと一つしかありません。それなのに、わざわざ「孤」という字を付け足しています。

そこには黒死牟自身の孤独が重なって見えます。

弟である縁壱に届くことなく生き続けた人生。

誰よりも強くなったはずなのに満たされなかった心。

「常夜孤月・無間」という名前には、黒死牟という人物の苦しみがそのまま表れているように感じました。

漆ノ型「厄鏡・月映え」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック20巻

続いては、漆ノ型「厄鏡・月映え」です。

厄鏡とは、厄を映す鏡。あるいは凶事を映し出す鏡。日本神話の鏡を連想させます。

月映えとは、月光によって物が美しく見えること。「映える」という日本語の本来の意味です。

つまり、美しい月に照らされた不吉な鏡という表現になります。鏡に映しだされる凶事は、相対した敵の運命でしょうか?

美と不吉が共存している、趣のある言葉ですね。

捌ノ型「月龍輪尾」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック20巻

龍は東洋では神聖な存在です。

輪尾とは、輪を描く尾。龍が月のように円を描いて飛ぶ姿にも見えます。

月と龍を合わせることで、天上世界の幻想的な景色が浮かび上がります。この型は、技の形状、刀の軌道などと関連がありそうです。

玖ノ型「降り月・連面」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック20巻

降り月(くだりづき)は、満月(十五夜)を過ぎて新月へと向かい、次第に欠けてゆく月を指します。満月の華やかさから一転し、どこか物寂しく、夜の更けた静寂や冷気を感じさせる趣深い秋の季語です。

降り月は深夜から明け方にかけて空に現れるため、空の暗さや静けさを感じさせます。

そして連面は、文字や物事が途切れずに連なっている様子を表す言葉です。

拾ノ型「穿面斬・蘿月」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック20巻

蘿月は、つたかずらを照らす月を指します。つたかずらとは、ブドウ科の落葉性つる植物で、特に秋の季語として使われます。これは、他のものに絡みつく蔓のことを指し、古くから「葛」や「蔓」として親しまれています。

また、蘿月は、松風蘿月とも呼ばれ、松の風とつたかずらの月を組み合わせた表現です。

文学や詩、俳句に使われ、秋の深まりや哀愁を感じさせる美しさがあります。

穿という字には、穴をあける、つらぬくという意味があります。

面斬は剣道と柔道を合わせた古武道の流派のなかにある技の一つで、相手の面(頭部)を斬る基本技法として用いられているようです。

この技は、円を描く太刀筋(=月)に、無数の三日月状の斬撃が加わっており(=太刀筋に絡みつく蔓)、蘿月という言葉がイメージできます。

黒死牟は蘿月という情景からこの技を考案したのでしょうか? もしくは、考案した技を蘿月に見立てたのかもしれませんね。

拾肆ノ型「兇変・天満繊月」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック20巻

兇変とは、凶事の前触れ。災厄のことです。

天満とは、空いっぱい。天を満たすという意味です。

繊月とは、細い三日月。糸のような月のこと。古典文学でよく使われる表現です。

つまり、細い三日月が天を埋め尽くす異変。技の演出を美しく表現する技名だと思います。

拾陸ノ型「月虹・片割れ月」

©吾峠呼世晴/集英社 コミック20巻

私が最も心を惹かれたのは、拾陸ノ型「月虹・片割れ月」です。

まず「月虹」とは、月明かりによって生まれる虹のことです。

太陽の虹に比べて非常に珍しく、幻想的な現象として知られています。

そしてもう一つの「片割れ月」。

これは欠けた月を表す言葉とも読めます。

しかし黒死牟の過去を知ると、どうしても別の意味を考えてしまいます。

それは双子だった縁壱との関係です。

片割れという言葉には、

「対になる存在」

という意味があります。

もしそうだとすれば、「片割れ月」という名前には、

縁壱というもう一人の自分への想いが込められているのかもしれません。

どんなに強くなっても、どれだけ長く生きても、黒死牟は縁壱から自由になれませんでした。

この技名には、そんな人生の象徴が隠されているように感じます。

黒死牟の技名から見えるもの

今回、月の呼吸の技名を改めて調べていて気づいたことがあります。

それは、黒死牟の技名には「欠けたもの」「孤独なもの」「手の届かないもの」を表す言葉が驚くほど多いことです。技名に登場する月がほとんど「満月」ではありません。

  • 闇月
  • 孤月
  • 常夜
  • 月虹
  • 片割れ月

どれも静かで美しい言葉です。

しかし、その美しさの奥にはどこか寂しさがあります。

炎の呼吸や雷の呼吸が力強さを感じさせるのに対し、月の呼吸はまるで一篇の詩のようです。

そしてその詩は、弟への憧れと劣等感を抱き続けた黒死牟の人生そのものを映しているように思えます。

まとめ

月の呼吸の技名を、言葉の意味から紐解いてみると、以下のことがわかりました。

  • 月の呼吸の技名には古語や仏教用語、中国思想などが数多く使われている
  • 「闇月」「孤月」「片割れ月」など、不完全さや孤独を連想させる言葉が多い
  • 技の描写と技名が密接に結び付いている
  • 月の呼吸の技名には武士だった頃の黒死牟の教養や美意識が表れている
  • 技名全体を通して見ると、黒死牟の孤独や縁壱への執着が読み取れる

月の呼吸は作中でも屈指の美しい呼吸法です。その哀愁のある美しい技名には、黒死牟という人物の人生が刻まれているのではないでしょうか。

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